この洋上プロジェクトには大きな目的が2つある。1つは将来の再生可能エネルギーを日本の近海から大量に得られるようにすることだ。島国の日本にとっては広い近海を対象にした洋上風力発電は有望なエネルギー供給源になる。
ところが日本の近海には遠浅の海域が意外に狭くて、発電設備を海底に固定する「着床式」を採用できる場所が限られている。設備を海底に固定せずに海面に浮かべた状態で発電する「浮体式」を実用化できれば、洋上風力の可能性は日本全国の近海に大きく開けてくる。
もう1つの目的は被災地の復興支援であり、福島第一原子力発電所に代わる新しい電力源を開発することだ。プロジェクトを実施する海域は、福島県の太平洋岸から東へ18キロメートル離れたところにある(図4)。現場から陸を見れば、右に福島第一原子力発電所、左に広野火力発電所が建っている。
これまでのように「原子力+火力」ではなく、今後は「風力+火力」が福島県の主力の電力源になって、発電設備の建設や運転にかかわる雇用を生み出していく。実証プロジェクトが成功すれば、同様の発電設備を同じ太平洋側にある岩手県や宮城県、茨城県といった被災地の近海に展開することも可能になるわけだ。
2013年度末まで実施する第1基のプロジェクトでは、復興の願いを込めて2つの設備に特別な名前を付けた。発電設備は「ふくしま未来」、変電設備は「ふくしま絆」である。変電設備は第2期で建設する超大型風車2基からの電力を福島県内に受けつなぐ役割も担う。
この変電設備の基礎部分も波の揺れや潮の流れの影響を受けにくい構造になっている。発電設備が4本の円筒を組み合わせた構造だったのに対して、変電設備は8角形の台座を上下に3枚並べた構造をとる(図5)。どちらの構造も浮体式の設備では標準的に使われるものである。
発電した電力は変電設備で通常の送電線に流すのと同じ66kVに変換した後、海底ケーブルを通って18キロメートル離れた陸地まで送り届ける。すでに海底ケーブルの敷設は完了していて、発電設備と変電設備の試運転に合わせて送電を開始できる体制が整っている。
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