足りない電気をお隣さんから調達、マンションの光熱費が30%減るスマートシティ(2/2 ページ)

» 2014年02月04日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
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導入しやすいT-グリッドシステム

 東レ建設は、静岡県内の大井川よりも東側、東京電力の管内にスマートタウンを建設する。「土地所有者との契約締結が完了していないため、具体的な地名は明らかにできない」(東レ建設)。スマートタウンにはマンション2棟と戸建て住宅10戸を設ける。マンション2棟の戸数は合計して200戸。このうちエネファームを導入するのはマンション側の200戸だ。

 マンションには高圧一括受電を導入する。電気、ガスとも静岡ガスが供給する形だ。「高圧一括受電を導入すると、受電点の二次側(マンション側)には電気事業法の規制が掛からなくなるため、各家庭の間で電力のやりとりが可能になる」(静岡ガス)。やりとりの一方が低圧受電であると、規制の範囲内となるため、マンションと戸建て住宅との間で電力をやりとりすることはできない。

 ある家庭と別の家庭の間で電力をやりとりするには、何らかの方法で戸別の消費電力を測定し、個々のエネファームを制御する必要がある。静岡ガスによれば、特許出願の関係で具体的な制御の手法を明らかにできないものの、エネファームの制御に加えて、マンション全体の電気の購入量を計測するという。その上で、発電余力のあるエネファームの出力を上げることにより、マンション全体で不足する電力量をまかなうという動作である。

 「T-グリッドシステムのような仕組みを7〜8年前から構想しており、今回、事業者と協力できることになり、実用化に至った。エネファームを利用して集合住宅内で電力を融通しようという技術開発は、他の大手ガス会社も試みている。T-グリッドシステムの特徴は、普及のしやすさを考えて開発したことだ。つまり導入時のコストが低い*1)。エネファーム同士が直接通信することはなく、他社のように高価な制御盤などを使わない制御の仕組みを組み込むことで実現する」(静岡ガス)。

*1) このため、エネファームを細かく制御してエネルギーを最大限に取り出すことは試みない。効率を最重要視すると、導入コストが高くなるためだ。なお、エネファーム側にはある程度のカスタマイズが必要になるため、現在、エネファームを製造する企業と協力中だとした。

価格設定が難しい

 ここまではマンション全体のエネルギーの利用効率をいかに高めるかを目的としている。静岡ガスによれば、T-グリッドシステム導入までにもう1つ課題が残っているという*2)

 「電力をマンション内で融通する際の『価格設定』が課題だ。マンション内での電力の売値と買値は当社が設定する。価格設定については2つの方針を立てた。1つは売買によって損をする家庭がないようにすること、もう1つは売れば売るほど利益が得られるような水準にすることだ。『売れば売るほど』という意味は、このように設定すれば各家庭内の自己消費分の電力を抑える方がよいと判断するユーザーが増えるだろうと考えたからだ。つまりは節電への動機付けとなる」(静岡ガス)。

 光熱費の支払いが減るだけでなく、自然に節電へと意識が変わっていく。これがT-グリッドシステムのメリットだろう。

*2) 現在のT-グリッドシステムに組み込まれていない機能もある。「湯」の融通だ。「湯を直接融通できると、さらにエネルギー効率が高くなることは分かっているものの、融通中の熱の損失や配送動力などの課題があるため、今後の開発課題とした」(静岡ガス)。

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