日本が世界をリードする先端技術の1つに「水素・燃料電池」の分野がある。トヨタ自動車が世界に先駆けて燃料電池車を市販する一方、川崎市では世界初の水素発電所を建設する構想が進む。水素は酸素と反応して、電気と熱と水を作る。CO2を排出しないクリーンエネルギーとして期待がかかる。
小学校の理科の授業で習ったように、水素(H2)と酸素(O2)が化学反応を起こすと、水(H2O)になる。その時に電気と熱も生まれる(図1)。この原理を利用して、水素を空気中の酸素と反応させれば、電気エネルギーと熱エネルギーを作ることができる。水素がエネルギー源になる理由だ。
最も身近な水素の利用方法は家庭用の燃料電池システムとして普及している「エネファーム」である。エネファームではガスから水素を作って燃料にする(図2)。酸素は外気から取り入れて、内部にある板状の「セル」で電気を作り出す仕組みだ。
セルの中にはプラチナなどの触媒が含まれていて、その作用で水素が分解されて酸素と反応する。通常はセルを何枚も重ねた「スタック」を構成して、大きな電力を得られるようにしている。
トヨタ自動車が世界で初めてセダンタイプの燃料電池車を2014年度内に市販する予定だ(図3)。燃料電池車には水素タンクを搭載して、そこからスタックに水素を供給する。車体の前面には酸素を取り込むための空気坑があって、走りながら水素と酸素を反応させてモーターを動かす。と同時に車外に水を吐き出す。ガソリン車と違ってCO2も有害物質も排出することはない。
問題は水素の供給方法である。ガソリンスタンドと同様に水素ステーションから供給することになるが、そのために大量の水素を製造・輸送するインフラの整備が課題になっている。水素の製造方法にはエネファームのように化石燃料から作る方法のほかに、工場で副産物として発生するものを集約したり、自然エネルギーから作った電力で水を分解したりする方法がある(図4)。
このほかに海外のガス田などで発生する大量の水素をタンカーで輸入する方法も現実性が高まってきた。その場合には水素を液化して輸送した後に、再び気体に転換する必要がある。国内では千代田化工建設が横浜市の事業所の中にデモプラントを建設して、液化した水素を気体にして取り出す技術を実証済みだ(図5)。
千代田化工建設は川崎市と共同で水素発電所を建設する計画も進めている。発電規模は90MW(メガワット)を想定していて、2015年に商用化する予定だ。再生可能エネルギーと同様にCO2を排出しないクリーンな電源になることから、未来に向けて火力発電を代替する期待もかけられている。
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