海洋立国の実力は? 「波力発電」の勝者は誰なのか自然エネルギー(2/3 ページ)

» 2014年08月15日 07時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

日本よりも海外が強い

 波力発電は日本に限らず、世界的に実証研究の段階にある。特に欧州諸国が熱心だ。図2は内閣府による欧州の海洋エネルギー実証フィールドの主な一覧。全ての実証フィールドが波力を含んでいることが分かる。国内では6つの実証フィールドのうち、1カ所だけが波力を対象としていることと、対照的だ。

図2 欧州における海洋エネルギー研究の主な実証拠点と研究対象(クリックで拡大) 出典:内閣府

 中でも実用化に近いのは英国スコットランドの企業Pelamis Wave Powerの装置「Pelamis」だろう。Pelamisの名はセグロウミヘビの学名(Pelamis platurus)に由来する。図2の左下に小さく写っているのが最新のPelamisだ。

 同社は1998年にPelamisの開発を開始、2004年に実物大モデルを試作し、2006年にはポルトガル海岸に第2世代のプロトタイプモデルを据え付けて試験運転を開始した。最新の実証実験はスコットランド北部のオークニー諸島にあるテストサイト「EMEC(欧州海洋エネルギーセンター)」で継続中だ。

 2基の「Pelamis P2」波力発電装置は、オークニー諸島メインランド島の沖合2kmに設置されており、2014年6月に系統への接続時間が1万時間を超えた。装置の最大出力は0.75MW(×2)、テストサイトでは30分平均値で0.28MWという出力を得ている。1万時間の売電量は200MWhだ。

 同社が波力発電に熱心な理由の1つは、英国が海洋エネルギーに恵まれているからだ。同社が公表した資料によれば、欧州の海洋エネルギーの総量は年平均で167GWという規模。そのうち、18%をスコットランドが占めているという*4)

 Pelamis P2は4本の円筒形のシリンダを「ヒンジ」で一直線につないだ形をしている(図3)。全長180m、直径4m、1350トンというかなり大きな装置だ。一番端に錨が付いていて、全体が海面上に浮かんでいる。波を受けるとシリンダ同士の角度が変わり、ヒンジが曲がる。これを油圧に変えて発電機を回転させる仕組みだ。このような仕組みを採ったため、さまざまな強さの波に対応でき、水深50m以上というテストサイトの条件下で年間90%の時間稼働でき、100年に1度の大波にも耐えられるという。Pelamisは船に緩くつないだ状態でも動作する。海に浮かぶデータセンターなどが実現できるという。

*4) 以下、アイルランド(18%)、ノルウェー(17%)、スペイン(12%)、ポルトガル(9%)、フランス(9%)を合計すると8割を超える。

図3 2基の「Pelamis P2」波力発電システム 出典:Pelamis Wave Power

オーストラリアでは海中発電を進める

 オーストラリアCarnegie Wave Energyの考える波力発電装置「CETO」は日本国内のプロジェクトや、Pelamis Wave Powerの装置とは大きく異なっている。基本的な考え方は海底にアンカーを打ち込み、そこからテザー(ひも)を伸ばして、海中に直径20mのブイを保持、ブイの上下運動でポンプを駆動し、蓄圧器から高圧の海水を得るというもの(図4)。ブイというものの、海面上に飛び出している部分はない。発電機は陸上にあり、高圧水を利用して電力を生み出す。

図4 波力発電システム「CETO 6」 出典:Carnegie Wave Energy

 同社がこのような構成を採用した理由は幾つかある。発電機が陸上にあるため、海中に設置するシステムを単純化できる*5)。海上には何もないため、荒天時の巨大な波に対応する必要がなくなる。海洋生物に与える影響が小さい。さらに、海の「美観」が損なわれず、観光などに有用な浜辺がそのまま残る。

 もう1つの理由は波の運動エネルギーを取り出すには、必ずしも装置を海面上に置く必要がないことだ。波のエネルギーは海面だけに集中しているのではない。深くなるにつれて次第にエネルギー密度が小さくなっていくものの、ある程度の深さまでは発電に利用できる規模のエネルギーを取り出すことができる。波と協調して海中に起こる円運動に近い海水の動きを利用する。

*5) 1つ前の世代の装置「CETO 5」までは海水淡水化にも役立つよう、このような構成を採っていた。「CETO 6」以降はシステム内部に発電機などを搭載した構成の開発も始めている。他企業にライセンス販売することを考えると、システム自体を海底に留めるだけで発電が可能な構成の方が、市場に受け入れられやすいからだ。加えて、沿岸から遠い海中にも設置しやすくなる。

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