癖のある「硫黄」を使って容量3倍、次世代リチウム蓄電池蓄電・発電機器(2/2 ページ)

» 2014年11月19日 07時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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硫黄の「良くない性質」を抑え込む

 硫黄は電池の電極材料として魅力的な性質を持っている。安価であり、希少資源でもない。無害だ。最も重要なのは1gの硫黄電極(正極)が1675mAhもの電気量を蓄えられること。広く使われている正極材料であるリチウム金属酸化物では不可能な数値だ。このため早くも1990年代から研究開発が続いている。

 硫黄には大きな欠点もある。そもそも電気を通さないのだ。電気抵抗は合成ゴムよりも大きい。このため、硫黄を棒状に加工しても電極としては機能しない。そこで複数の解決策が生まれた。そのうち1つは、細かい孔を表面に持つ電極を用意して、そこに硫黄の微粒子を詰めること。硫黄の重量当たりの表面積が増え、電気化学反応が進みやすくなる。

 GSユアサの手法もこのような手法と概要は似ている。だが違いも大きい。今回の成果は3つある。1つ目の成果は製造条件だ。「硫黄を支える(担持する)カーボンにナノオーダー(nmサイズ)の細孔を均一に作り込むための作成条件を見つけた。最適なサイズを作り込む制御が可能になった」(同社)。

 2つ目の成果はこうだ。「効率良く細孔に硫黄を充填する技術を開発した。他社の技術でも充填はできるが、硫黄とカーボンの接触面積が大きくなるように充填できることが当社の技術の特徴だ」(同社)。

 これまでの他社の研究成果では、細孔の直径が大きく不均一であることに加え、硫黄がうまく細孔中に分散していなかった。このため、蓄えられる電気量は800mAh/g以下にとどまっていたのだという。GSユアサは1000mAh/g以上の容量を実現した(図3)*4)。図3にある2本の曲線の右端が示す数字を見ると、確かに「800」が「1000以上」に改善できている。高性能な「硫黄-多孔性カーボン複合体正極」だといえるだろう。

*4) GSユアサによれば、図3の放電特性と図4の充放電サイクル特性を分かりやすくするために、シリコン負極ではなく、放電電位が安定した金属リチウム負極を用いている。

図3 硫黄-多孔性カーボン複合体正極の放電特性 出典:GSユアサ

硫黄の溶け出しを防ぐ

 3つ目の成果は硫黄が電子を受け取り、リチウムと結合する際の挙動の制御だ。「正極の硫黄(S)は、複数の段階を経て最終的に硫化リチウム(Li2S)になる*5)。その途中の段階の化合物(中間反応体、多硫化物)が電解液に溶解したり、拡散すると次第に電極の性能が低下してしまう。これを防いだ」(同社)。図4の赤丸で示したグラフのように充放電サイクルをくり返した場合も容量が低下しにくい。なお、同社は具体的な防止手法を公開していない。

*5) 例えば、分子状のS8が放電時に複数の段階を経てリチウムイオン(Li)と結合していく。まず、電子を2つ受け取ってLi2S8となり、さらに電子を受け取りながら、2Li2S4、4Li2S2を経て、8Li2Sに至る。この反応が理想的に進むと、1675mAh/gという放電が可能になる。

図4 硫黄-多孔性カーボン複合体正極の充放電サイクル特性 出典:GSユアサ

 なお、同社は今回の硫黄-多孔性カーボン複合体に関する成果の一部を、2014年11月19〜21日に国立京都国際会館で開催される「第55回電池討論会」で発表する。

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