電力会社の相次ぐ値上げによって電気料金が上昇しているが、米ドルで換算すると他の先進国と比べて決して高くない。ドイツやイタリアよりも安くて、イギリスとほぼ同じ水準だ。円安による換算レートの影響があるとはいえ、国際競争力を阻害するほどの要因にはなっていない。
政府が将来のエネルギーミックス(電源構成)を検討するうえで重視していることの1つに電気料金の抑制がある。震災後に電力会社7社が相次いで値上げを実施した結果、2011〜2013年度の3年間に電気料金は平均で20%以上も上昇した(図1)。火力発電と再生可能エネルギーの増加が主な要因であることから、燃料費の安い原子力を復活させる理由に挙げられている。
しかし世界の先進国と比較して日本の電気料金はさほど高くない。資源エネルギー庁がまとめたデータによると、2014年の第2四半期(4〜6月)の時点でも平均的なレベルに収まっている。欧米の主要国に日本と韓国を加えた8カ国の中で、家庭用はドイツ、イタリア、イギリスに次いで4番目だ。工場などが使う産業用でも、イタリアとドイツよりは安く、イギリスを少し上回って3番目になっている(図2)。
ほかの国と比べて日本の電気料金がさほど上昇していないのは、円安による為替の影響が大きい。2011年には米ドルが76円台まで下がっていたため、2014年前半の102円前後の水準と比べて3割以上の差が生じる。火力発電の燃料費にも同様に為替の影響があり、為替レートが安定すれば電気料金は安定する構造だ。
政府が検討中のエネルギーミックスでは、2030年に向けて火力の比率を大幅に引き下げて、代わりに原子力と再生可能エネルギーを増やす見通しである。CO2の排出量は確実に削減できるが、電気料金の水準がどの程度まで下がるかは流動的だ。
再生可能エネルギーには固定価格買取制度による賦課金が電気料金に上乗せされる。2014年度の賦課金は電力1kWhあたり0.75円である。年間の電力使用量が3600kWhの標準的な家庭の場合で年間に2700円の賦課金になる(図3)。原子力による放射能汚染と火力による地球温暖化のリスクを回避するためのコスト負担と考えれば、決して高くはないだろう。
とはいえ、今後も再生可能エネルギーが増えるのに伴って賦課金もどんどん上がっていく。資源エネルギー庁の試算では、2014年6月末の時点で買取制度の認定を受けた発電設備がすべて運転を開始すると、賦課金の総額が2兆7000億円に達して、家庭の負担額は年間に1万円を超えてしまう。
すでに再生可能エネルギーの比率が20%を超えたドイツでは、賦課金によって家庭の電気料金が日本の約1.5倍にはねあがっている(図4)。産業用は付加価値税が免除されて日本と同じ水準に維持されていて、企業の負担分を家庭が肩代わりしている状況だ。
それでは原子力が増えた場合はどうか。日本では原子力発電所の立地自治体に国が交付金を支給するなど、税金の一部が使われて国民の負担になっている。さらに震災後に義務づけられた安全対策の費用が膨れ上がり、電力会社のコストが大幅に増えている。
これから小売全面自由化によって電力会社は価格競争を強いられることになる。このため政府は増大する原子力発電のコストの一部を電気料金に上乗せする案を検討中だ。原子力発電所が再稼働しても、電気料金が安くなるとは限らない。
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