北の大地が生み出す水力と水素、日本の新たなエネルギー供給基地にエネルギー列島2015年版(1)北海道(1/2 ページ)

広大な土地と自然に恵まれた北海道では、太陽光と風力の導入が活発に進んできた。ただし天候によって出力が変動する問題に加えて、季節や時間帯で電力が余る可能性もある。発電量が安定している水力とバイオマスが道内に広がり始め、余った電力は水素に転換して首都圏に供給する。

» 2015年04月21日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 北海道では中心部を北から南へ山脈が連なり、道内の全域に1万5000本の川が流れている。農業用水路の総延長距離は2万5000キロメートルにもおよぶ。国内でも有数の水資源の宝庫だ。最近まで北海道の再生可能エネルギーは太陽光と風力を中心に開発が進んでいたが、山岳地帯を中心に水力発電の導入プロジェクトが相次いで始まった。

 中部に広がる夕張市の山間部では、「シューパロ発電所」が4月1日に稼働したところだ。発電能力は2万8470kW(キロワット)に達して、年間の発電量は8700万kWh(キロワット時)にもなる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して2万4000世帯分に相当する。夕張市の総世帯数(約5400世帯)の4倍以上の電力を供給することができる。

 この一帯では夕張山地から流れ出る夕張川が頻繁に洪水を起こすため、1960年に洪水対策でダムが造られた。新たにダムの貯水能力を高める改良工事を実施することになり、それに合わせてシューパロ発電所を建設した(図1)。北海道庁が運営する8カ所の水力発電所の1つで、道営の発電所では最大の規模である。

図1 「シューパロ発電所」と「夕張シューパロダム」の建設計画(上、2012年3月時点)、2種類の水車発電機(下)。出典:北海道企業局

 発電機は2種類を備えている。季節や天候によって変動する大量の水で発電する1号機(2万6600kW)に加えて、下流の自然環境を保護するために常に放流する小量の水を利用できる2号機(1870kW)で構成する。地域の洪水をダムで防ぎながら、豊富な水量を最大限に生かして電力を供給する体制だ。

 大規模な水力発電所は北海道の西部でも動き出している。夕張から西へ100キロメートル以上も離れた羊蹄山(ようていざん)の近くでは、道内で初めての揚水式による発電所が2014年10月に運転を開始した。北海道電力が13年の歳月をかけて建設を進めてきた「京極(きょうごく)発電所」である。

 羊蹄山や近くの山から流れ出る川の水をダムに集めて、上流に造った調整池まで水を引き上げる仕組みだ(図2)。地域の供給力が需要を上回って電力が余ると、その電力を使って水を調整池までくみ上げておく。需要が増える時間帯になったら、くみ上げた水を山中に設置した水車発電機まで流して発電することができる。発電後の水は再びダムに戻り、次の発電に利用することが可能だ。

図2 揚水式の「京極発電所」の全景(上)、1号発電機(下)。出典:北海道電力

 調整池から発電機まで水流の落差は369メートルもある。この水流を利用して3台の水車発電機で発電する。1台あたりの発電能力は20万kWで、2014年10月に運転を開始した1号機に続き、2015年12月には2号機が稼働する。残る3号機は2024年度以降に運転を開始する予定である。

 北海道では太陽光や風力による発電設備が急速に拡大して、地域や時間帯によっては電力が余ってしまう可能性がある。今後は火力に加えて再生可能エネルギーの余剰電力を京極発電所で水力エネルギーに転換することができる。揚水式の発電所は「巨大な蓄電池」とも呼ばれていて、電力の安定供給に重要な役割を果たす。

 大規模な水力発電所とは別に、農業用水を活用した小水力発電の開発も進んできた。面積の広い北海道には農業用水路が長い距離にわたって延びている。ところが農家の減少に伴って維持管理費の負担が大きくなってきた。そこで北海道庁は農業用水施設に小水力発電を導入して、売電収入で維持管理費を軽減する方針だ。

 道内にある農業用水施設のうち、小水力発電が可能な場所を調査したところ、ダム・ため池を含めて200カ所以上も有望な地点が見つかった(図3)。すべての場所に発電設備を設置できると、発電能力は2万6000kWを超える。年間の発電量は2590万kWhになり、一般家庭で7200世帯分の使用量に匹敵する。

図3 農業用水を活用した小水力発電のポテンシャル分布。出典:北海道農政部
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