水素資源も含めた、多様なエネルギーサプライチェーンが不可欠和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(11)(4/4 ページ)

» 2015年04月24日 09時00分 公開
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水素のボリュームは?

和田氏 エネファームやFCVではそれほど多くの水素を必要としないため、水素の供給量については、現在の副生水素で十分足りるといわれいる。一方、海外で水素を生成し日本に持ち込む話もあるが、これらについてはどう考えているのか。

吉武氏 副生水素は製鉄所などで生成できるため、確かに必要な水素量については日本国内で十分にまかなえる。しかしその一方で、バリューチェーンとしてはまだ完成していない。エネルギー資源は存在するだけでは意味が無く、バリューチェーンが完成していないとうまくいかないことが多い。海外からの水素導入についても、いろいろな可能性を検討している段階であり、実際にどういった成果が生まれるのかのシナリオを描き、トライしている段階だと捉えている。

和田氏 燃料電池規格の国際標準化については、FCDICとして何か活動されているのか。

吉武氏 燃料電池については、1998年IECに燃料電池の専門委員会であるTC105が承認された。それを受けて国際標準化体系が決められ、作業テーマ別に設置されたワーキンググループ(WG)がそれぞれ活動を行っている。日本ではTC105の発足を受けて、日本電機工業会(JEMA)が審議団体として指定を受けた。FCDICからは、国際標準化に詳しい顧問がJEMAの活動に参加している。

和田氏 現在のFCVは70MPa(メガパスカル)の圧力を採用しているが、今後はこれをキープするのか、それとも変更する可能性があるのか。

吉武氏 当初は35メガパスカルと70メガパスカルの2種類が検討されていたが、海外からの要請もあり、さらにFCVの走行距離も長くなることから最終的に70メガパスカルに落ち着いた。確かに70メガパスカルでは貯蔵タンクなどを保持するための部品コストが高くなるが、現時点で変更する予定はないのではないか。

和田氏 水素を運ぶ方法としてアンモニアも俎上に載せられているが、これについてはどうみているか。

吉武氏 確かに大学を中心にアンモニアの利用に関する研究が進められている。アンモニア(NH3)は多くの水素を含み、比較的容易に液化することが可能である。さらに既存のインフラが使えるという利点もある。ただしアンモニアは臭気があり、毒性も強い点が気になる。FCV用として要求される水素の純度を得るためには、アンモニアから製造された水素をさらに精製する必要がある。こうした要因によりコスト面から考えた場合、発電用にアンモニアを燃料として利用する場合ほどアンモニアの優位性は発揮できないのではないかと考えられている。しかし現在、興味深いプロジェクトが計画されており、今後の研究開発の進捗に期待したい。

和田氏 最後に2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてFCDICとして何か活動されているのか。

吉武氏 直接の関与はないが、今後、FCVフォーラムを数回開催予定であり、いろいろな場面を通して水素の活用についてアピールしていきたいと考えている。

取材を終えて

 FCVや水素ステーションの普及を図ろうとすると、企業努力だけでなく、業界横断した普及推進団体の存在が鍵となる。その意味で、FCDICは業界を引っ張ってきたといっても過言ではないだろう。取材を終えて、筆者が気づいたことは次の点である。

1.ゼイタク

 水素社会の話をする際、水素をどうやって作るのかが必ず議論になる。副生水素の活用という方法もあるが、新たに水素を作ろうとすると、Well-to-Tankのエネルギー効率面から見れば必ずしも効率は良くない。この点に対して、FCDICはエネルギー効率のみならず、エネルギーを作ったあと、溜めたり、運んだりすることも重要との考えであった。確かに東日本大震災でも、1つのエネルギーに頼ることの難しさを実感している。「ゼイタクの質」が変わってきているとの見解であるが、社会インフラとして次の3つが成立するのか、まだ方向性は見えていないのではないだろうか。

  • ガソリンスタンド……約3万2000軒
  • 電気自動車用急速充電器……3087カ所(2015年3月27日現在)
  • 水素ステーション……約40カ所

2.開かれた組織

 FCDICは多様な活動をしており、関係者にとってはなくてはならない団体である。しかしどちらかと言えば、あくまで会員間での活動であったり、業界団体としての意見を取りまとめる場になっている。それはそれで必要であるが、水素社会としての在り方、FCVや水素ステーションの在り方などについては、これまで世の中になかったものであり、もっと知らしめる役割が必要であろう。その意味で専門家集団としての団体から、より開かれた組織への脱皮が望まれるのではないだろうか。

 後編では、FCDICと並び代表的な業界団体である燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)の取り組みについて紹介する。

筆者紹介

和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。


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