東大の研究グループは、レアメタルの「インジウム」を含まないカーボンナノチューブ有機薄膜太陽電池の開発に成功した。将来的に太陽電池の低コスト化や太陽エネルギーの利用拡大に役立つことが期待される。
東京大学大学院理学系研究科の松尾豊特任教授、工学系研究科の丸山茂夫教授らの研究グループは、カーボンナノチューブを有機薄膜太陽電池の透明電極として用いるための方法論を確立。レアメタルである「インジウム」を用いない有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率を向上させた他、カーボンナノチューブ薄膜の柔軟性を生かしたフレキシブルな太陽電池の開発に成功した(図1)。
有機系太陽電池は低エネルギー製造プロセスにより将来的に安価に製造されることが見込まれる新しい太陽電池で、世界中で活発に研究開発が行われている(関連記事)。
エネルギー変換効率や耐久性など解決すべき問題がまだあるものの、近年有機系太陽電池の一種である有機薄膜太陽電池ではエネルギー変換効率が10%を突破。同様に有機金属ペロブスカイト太陽電池では、エネルギー変換効率が20%を超えており、無機系の太陽電池であるアモルファスシリコン太陽電池や多結晶シリコン太陽電池と同等の性能が得られるようになってきている(関連記事)。
有機薄膜太陽電池の透明電極には酸化インジウムスズが用いられるケースが多い。しかし、将来的に有機系太陽電池を大量生産する場合、レアメタルであるインジウムは需要に対して供給量が逼迫(ひっぱく)するリスクがある。一方、カーボンナノチューブは元素としては供給の制約を受けない炭素で作られ、優れた電荷輸送特性、化学的安定性、機械的安定性および柔軟性を併せ持つことから太陽電池の電極材料として用いられることが期待される。
ただ、カーボンナノチューブを用いた有機系太陽電池の研究開発はこれまでも行われてきたものの、カーボンナノチューブ薄膜を透明電極として用いた有機薄膜太陽電池の変換効率は2%にとどまっていた。
今回、同研究グループは、高純度で透明性の高いカーボンナノチューブ薄膜のエネルギー準位を変え、有機発電層からプラスの電荷(ホール)のみを選択的に捕集して輸送するカーボンナノチューブ透明電極を開発したことで、インジウムを用いない有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率を6%以上と大幅に向上させた。また、PET(ポリエチレンテレフタラート)フィルムの上にカーボンナノチューブ薄膜を転写して用いることでフレキシブルなカーボンナノチューブ有機薄膜太陽電池を作製することにも成功した。
カーボンナノチューブは安価な塩化鉄などの鉄触媒とアルコールや一酸化炭素などの炭素源を用いて合成され、原理的には安価に製造することが可能で、太陽電池の低コスト化につながることが期待される。また、有機発電層に用いる共役系高分子やフラーレン誘導体も炭素豊富な有機化合物であり、電極に用いるカーボンナノチューブを含めて炭素を主な構成成分とする新たなカテゴリーに属する有機系太陽電池の創出も見込まれる。同研究グループでは今後、有機材料やデバイス構造の最適化を行うことにより、さらなる高効率化研究に取り組む予定としている。
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