火力発電の効率改善は待ったなし、電力会社はCO2排出量を3割低減へ法制度・規制

国が2030年の温室効果ガスの削減目標を決定したことを受けて、電力業界が火力発電の効率改善に取り組む姿勢を打ち出した。電力会社のCO2排出係数が0.50を超える現状に対して、2030年度に業界全体で0.37まで引き下げる。高効率化に加えて、老朽化した設備の廃止・更新が急務だ。

» 2015年07月22日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 日本が世界に約束する地球温暖化対策の新しい目標が7月17日に正式に決まり、2030年度に向けて目標達成のための実行計画が各業界に求められる。電力業界では火力発電の効率改善が最も重要な課題だ。電力から生じるCO2排出量を2013年度比で35%も削減する必要があり(図1)、既設と新設を合わせた火力発電設備の全体で有効な対策を実施することが不可欠になった。

図1 エネルギーの生産・消費に伴うCO2排出量の実績と目標(左)、そのうち電力によるCO2排出量(右)。単位:億トン。出典:経済産業省

 CO2排出量の削減目標が正式に決定したことを受けて、電力会社を中心に35社の事業者が共同で「電気事業における低炭素社会実行計画」を発表した。注目すべきは2030年度までに電力業界全体でCO2排出係数を0.37kg-CO2/kWh(二酸化炭素換算-キログラム/キロワット時)まで低減させる目標を掲げたことだ。このCO2排出係数は電力1kWhあたりで発生するCO2排出量を示している。

 直近の実績を見ると、2013年度の電力会社10社のCO2排出係数は、最も低い中部電力で0.513kg-CO2/kWh、最も高い沖縄電力は0.858kg-CO2/kWhである(図2)。中部電力でも目標達成には3割近い改善が必要になる。各社とも原子力と再生可能エネルギーの拡大だけでは不十分で、CO2排出量の大半を占める火力発電設備に抜本的な対策が欠かせない。

図2 電力会社のCO2排出係数(2013年度)。調整後の排出係数は固定価格買取制度による再生可能エネルギーの電力量を反映。出典:環境省

 現在のところ新設する火力発電設備の対策だけが明確になっている。2030年度のエネルギーミックスの目標では石炭火力が全体の26%、LNG(液化天然ガス)火力が27%を占める。政府は石炭火力の平均水準を現在の最高レベルの発電方式である「USC:超々臨界圧(Ultra Super Critical)」並みに引き上げる方針を打ち出した(図3)。

図3 2030年のエネルギーミックスの目標値を達成するために必要な石炭火力発電設備の高効率化イメージ。出典:資源エネルギー庁

 この方針に従って、新設する石炭火力はUSC以上の効率を発揮する設備に制限する。同様にLNG火力は発電効率が50%以上のコンバインドサイクル(複合発電)を標準に設定する考えだ(図4)。火力発電設備を新設する場合のガイドラインは「BAT(Best Available Technology、最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況)」で決まっている。今後はBATの基準に見合わない発電設備は新設できなくなる。

図4 火力発電設備の高効率化の進展。石炭火力(上)、LNG火力(下)。出典:資源エネルギー庁

 国内で稼働中の火力発電設備の大半は電力会社10社とJ-POWER(電源開発)が運営している。一定規模以上のエネルギーを消費する発電設備だけでも全国に144カ所ある(図5)。火力発電のCO2排出量を業界全体で3割以上も削減するためには、既存の発電設備の廃止か更新が必要になる。

図5 火力発電事業の状況(省エネ法に基づく2013年度の定期報告による)。一般電気事業者は電力会社10社、卸電気事業者は電源開発と日本原子力発電の2社。kl:キロリットル。出典:資源エネルギー庁

 新たに電力会社を中心に策定した計画の中には、既存の発電設備に対するな対策は盛り込まれていない。石炭とLNG、さらにコストとCO2排出量の両面で非効率な石油火力を含めて、既設と新設それぞれの発電設備に対する基準を設けることが急務だ。基準を満たさない発電設備を2030年度以降も運転することを禁止する法令が必要になる。

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