燃料電池の耐久性を120倍に、実用化が近づく触媒技術蓄電・発電機器(1/2 ページ)

水素社会の実現に向け、さらなる高性能化や低価格化が期待される燃料電池。九州大学の研究グループは、固体高分子形燃料電池に用いる電極触媒の耐久性を、従来比120倍に向上させたと発表した。

» 2015年11月27日 11時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の研究グループは、低温加湿下で発電する固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)の電極触媒の作製法を工夫することで、耐久性の飛躍的な向上に成功したと発表した。従来触媒の120倍に相当する耐久性が得られたという。

 PEFCは電解質にイオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)を用いる燃料電池だ。100度以下で反応するのが特徴で、「エネファーム」や燃料電池車などに広く採用されている。一方でさらなる普及に向け、コスト低減や高性能化に関する研究開発も進められている。中でも研究開発の中心となっているのが、コストや効率、耐久性を大きく左右する電極触媒の改良に関するものだ。

 一般的なPEFCの電極は、カーボンブラックに白金ナノ粒子を固定吸着(担持)した複合体と、水素イオンを伝達する樹脂を混合させている。今回の研究ではカーボンナノチューブ(CNT)の表面に、均一な粒径の白金ナノ粒子を高分散で吸着させた触媒を開発。水素イオンを伝達する樹脂には、商用化済みの燃料電池にも用いられているNafionを用いた。

 研究グループは開発した新たな触媒と市販の触媒の耐久性を比べるため、80度加湿条件という一般的な条件下で比較実験を行った。その結果、市販の触媒を用いた場合では起電力が5000サイクル程度で半減するのに対し、開発した電極では120倍となる60万サイクル後でもほとんど起電力の減少が見られなかったという(図1)。

図1 耐久性テストの結果 出典:九州大学

 より現行材料に近い樹脂を利用した成果であり。研究グループは優れた耐久性を引き出せる画期的な手法だとしている。なお、従来CNTに白金ナノ粒子を担持することは難しかったが、研究グループでは以前の研究で、ポリベンズイミダゾールという素材を「のり」のように使うことでこの課題をクリアできることを発見。今回の研究においてもこの技術を利用している。

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