2020年代に導入できる火力発電技術、タービン1基で高効率に:次世代の火力発電ロードマップ(3)(3/3 ページ)
LNG火力を進化させるAHATの技術開発プロジェクトは2017年度に完了する見通しだ。三菱日立パワーシステムズが中心になって実証機を開発中で、2017年度内に試験を実施する予定になっている。順調に行けば石炭火力のA-USCから1年程度の遅れで、AHATを使った大型のLNG火力発電所が運転を開始する。
AHATの発電設備は従来のガスタービンに加えて、発電後の排ガスから湿分の高い空気を回収して再利用するための設備を導入する必要がある(図6)。高湿分の空気をガスの燃焼器に戻して燃焼効率を向上させるほかに、ガスタービンを回転させるために必要な空気の圧縮機の稼働効率も水を使って改善できる。高湿分の空気でガスを燃焼させることによって、有害な窒素酸化物(NOx)の排出量も少なくなる。
図6 「AHAT」の設備構成(画像をクリックするとコンバインドサイクル方式と比較)。出典:三菱日立パワーシステムズ
最新のLNG火力で主流のコンバインドサイクル方式と比べると、起動時間などの運用性はAHATのほうが格段に優れている。最大出力に到達するまでの起動時間は2分の1以下で、しかも最低出力を25%まで引き下げることが可能だ(図7)。天候による出力の変動が大きい太陽光発電や風力発電と組み合わせて機動的に運用できる。建設費を含めて経済性の点でもコンバインドサイクルを上回る。
図7 「コンバインドサイクル」と「AHAT」の比較。ST:蒸気タービン、NOx:窒素酸化物、ppm:体積濃度(100万分の1)。出典:三菱日立パワーシステムズ
電力会社をはじめとする発電事業者は2030年のCO2削減目標に向けて、高効率の火力発電設備を増やすことが急務になっている。次世代の火力発電技術の中で2020年代に運転を開始できる方式としてはAHATとA-USCが最有力だ(図8)。数多くの火力発電所でAHATとA-USCの導入が始まれば、国全体のCO2排出量は着実に減っていく。
図8 次世代火力発電のロードマップにおける「A-USC」と「AHAT」の位置づけ(画像をクリックするとロードマップ全体を表示)。出典:資源エネルギー庁
第4回:「水素が変える未来の火力発電、2030年のCO2排出量を減らす」
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- 次世代の発電効率は3割アップ、燃料費とCO2を減らす
15年後の2030年になっても、日本の電力の半分以上は火力発電に依存する。燃料費とCO2排出量を削減するためには、発電効率を引き上げるしかない。日本が世界に誇る石炭火力とLNG火力の最新技術を進化させれば、2030年までに現在の発電効率を3割以上も高めることが可能だ。
- 効率の悪い火力発電は撤廃へ、ベンチマークで電力業界を規制
国全体のCO2排出量の4割以上を占める火力発電に対して、新たな規制の枠組みを導入する方針が固まった。石炭・LNG・石油による発電効率の目標値を設定したうえで、2種類のベンチマーク指標を使って事業者ごとに目標値の達成を義務づける。発電効率が低い老朽化した設備の廃止を促す。
- 電力会社のCO2排出量が2014年度に減少、再生可能エネルギーと火力発電の高効率化
日本のCO2排出量の約4割は火力発電による。東日本大震災後に急増したCO2排出量が徐々に減ってきた。電力会社のうち8社が発表した2014年度の実績では、CO2排出量の最も多い東京電力が前年度比8%の減少になったほか、沖縄電力を除く7社で前年度を下回っている。
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