森林資源が豊富な三重県で木質バイオマス発電所が相次いで運転を開始した。工業地帯の遊休地とバイオマス資源を活用して再生可能エネルギーの電力を生み出す。歴史のある熊野地域の産業振興にも木質バイオマスを生かす。高原地帯では巨大なメガソーラーと風力発電所が拡大中だ。
三重県の中部に人口1万5000人の多気町(たきちょう)がある。町内にはシャープの液晶工場が操業中で、その周辺には液晶にちなんで名づけた「多気クリスタルタウン」が広がっている(図1)。商業・工業・環境の3つのゾーンで構成する街の一角に、木質バイオマス発電所が2016年6月に誕生した。
中部電力グループの中部プラントサービスが建設・運営する「多気バイオパワー」だ(図2)。発電能力は6.7MW(メガワット)ある。地域で発生する間伐材などを年間に6.5万トン利用して、5000万kWh(キロワット時)の電力を供給できる。一般家庭の使用量(年間3600世帯)に換算して1万4000世帯分に相当する。多気町の総世帯数(5600世帯)の2.5倍に匹敵する規模になる。
さらに発電所の隣接地では、発電時に排出する熱とCO2を利用して、バイオ燃料になる微細藻類のユーグレナ(和名:ミドリムシ)を生産する実証プロジェクトも始まる。世界で初めてユーグレナの屋外大量培養技術を確立した民間企業(社名もユーグレナ)が微細藻類の培養プールを備えた「藻類エネルギー研究所」を建設する計画だ。
微細藻類を効率よく培養するためには、大量の熱とCO2を安く利用できることが条件になる(図3)。その点で多気バイオパワーの隣接地は絶好の場所である。実証プロジェクトは2016年10月から開始して、2018年には総面積が3000平方メートル以上に及ぶ国内最大級の培養プールで微細藻類の生産に取り組む予定だ。
このほかにも多気町ではユニークな木質バイオマス発電プロジェクトの計画が進んでいる。2019年に開業予定の複合リゾート施設「アクアイグニス多気」の敷地内に、地域の間伐材や竹などを燃料に利用するコージェネレーション(熱電併給)システムを導入する構想がある(図4)。
ヨーロッパで実用化が進んでいるORC(有機ランキンサイクル)方式のコージェネレーションシステムを採用して電力と温水を作る。ORC方式は木質バイオマスをボイラーで燃焼して、熱を伝達するサーマルオイルを加熱する仕組みだ。高温になったサーマルオイルで沸点の低い有機媒体(シリコンオイルなど)を蒸発させて、蒸気でタービンを回して発電する。同時に熱を利用して温水も供給できる。
ORC方式はエネルギー効率の高さが特徴で、燃料のエネルギーのうち電力に20%、熱に78%も転換できる。アクアイグニス多気では発電した電力を売電する一方、温水はリゾート施設で利用する方針だ。
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