非化石価値取引市場を創設して期待できる効果は2つある。1つは小売電気事業者が非化石電源の調達比率の目標を達成しやすくなり、結果としてCO2排出量の削減をもたらす。もう1つの効果は再生可能エネルギーの電力に対して国民が負担するFIT(固定価格買取制度)の賦課金を軽減できることだ(図4)。
FITの適用を受けて発電した電力には火力発電よりも高い買取価格が設定されている。現在は小売電気事業者が買い取った電力に対して国の機関から差額が支払われる一方、その費用を電気料金に賦課金として上乗せする仕組みだ。新市場を通じて国の機関が非化石価値を売ることができれば、その収入分だけ賦課金を減らせる(図5)。
さらに非化石価値を2つに分けて、再生可能エネルギーの環境価値を明確に示せる新ルールを設ける予定だ。CO2の排出量を低減する「ゼロエミッション(ゼロエミ)価値」のほかに、電源の種類による「環境表示価値」を小売電気事業者に与える(図6)。
そのために非化石価値を取引する証書を2種類に分ける。1つはFITを含めて再生可能エネルギーによる電力を対象にした証書、もう1つは原子力や大型水力を含めて電源を特定しない証書も用意する(図7)。前者に対しては小売電気事業者が「実質再エネ」といった表現で需要家に訴求することを認める。
2016年4月に始まった電力の小売全面自由化によって、小売電気事業者には販売する電力の電源構成を明示することが求められている。この中でFITの適用を受けた電力は再生可能エネルギーではなくて「FIT電気」と表示しなくてはならない。
非化石価値の売買が可能になると、電源構成に加えて非化石証書の購入量を表示できるようになる(図8)。それと合わせてFIT電気による非化石証書に対しては「実質再エネ100%」と表示することも許容する方向だ。
FIT電気に対する証書は国の機関が売り手になり、一方のFIT以外の証書は電力会社をはじめとする発電事業者が売り手になる。どちらも買い手は小売電気事業者で、法律で定められた非化石電源の比率目標(44%以上)を達成するために2種類の証書を利用できる(図9)。
ただし多くの国民にとって気になる点は、原子力で発電した電力が非化石価値を伴って増大することだ。CO2排出量の削減には有効だが、同時に放射能汚染のリスクが高まり、いまだ処理方法のめどが立たない使用済み核燃料も増えてしまう。同じ非化石価値とはいえ、種類の違いを認識したうえで小売電気事業者を選別する必要がある。
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