原子力発電所の廃炉費用を託送料金に、国策民営のもとで新制度へ動き出す電力システム改革(75)(1/2 ページ)

電力システムの改革と同時に喫緊の課題になっている原子力発電所の早期廃炉に向けて、政府は巨額の廃炉費用を託送料金で回収する制度を導入する方針だ。新電力の利用者も廃炉費用を負担する仕組みに変更して電力会社の負担を軽減する狙いだが、国民の理解を得られない不条理な制度と言える。

» 2016年11月17日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

第74回:「CO2を排出しない原子力・再エネに、非化石価値市場を創設」

 政府が2016年9月に新設した「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」には2つの重要なテーマがある。1つは電力会社が発電所で作る電力を広く流通させるための新市場の整備、もう1つは原子力発電所の廃炉に伴う費用負担の問題だ(図1)。いずれも電力会社を救済する意味合いが大きい。

図1 電力システム改革の貫徹に向けた市場整備と財務会計の新制度。出典:資源エネルギー庁

 原子力発電所の廃炉費用に関しては、送配電ネットワークの使用料にあたる託送料金に上乗せする案を実現させる方向だ。原子力発電所を所有する電力会社だけではなくて新電力の利用者も負担することになる(図2)。政府は新電力が廃炉費用を負担するケースを「例外」に位置づけているが、この中には運転開始から60年未満で廃炉する原子力発電所すべてが入る。

図2 費用負担の変更案(上)、原子力発電所の資産区分(下)。出典:資源エネルギー庁

 「福島第一原子力発電所」の事故を受けて2013年に施行した新規制基準によって、運転開始から40年以上を経過した原子力発電設備は原則として停止・廃炉しなくてはならない。従来は運転開始から60年以上で廃炉する規定だったため、60年未満で廃炉することを「計画外廃炉」と呼んで例外とみなすことになった。これから廃炉する原子力発電所の大半は例外になって、その廃炉費用を託送料金で回収する制度に変わるわけだ。

 背景には小売全面自由化や発送電分離による電力システムの改革がある。従来は発電・送配電・小売のすべてを電力会社が担ってきたが、今後は送配電事業を除いて自由な競争状態になる(図3)。巨額の廃炉費用を電力会社だけが背負い続けると、発電事業の競争力が損なわれてしまう。

図3 電力システム改革による事業区分。出典:資源エネルギー庁

 すべての事業者が託送料金として廃炉費用を負担すれば、電力会社の発電事業の競争力を維持できて計画外廃炉を進めやすくなる。もはや巨大な負の遺産になりつつある全国各地の原子力発電所を国民の負担で解消しなくてはならない状況だ。国策民営によって責任の所在があいまいな体制で原子力発電を推進してきた弊害の1つと言える。

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