実際に国民が負担しなくてはならない原子力発電所の廃炉費用は現時点では正確に算出できない。廃炉に伴う費用には2種類ある。1つは原子力発電設備の減価償却による残存資産、もう1つは廃炉に必要な解体費の引当金である。
すでに計画外廃炉を決定した原子力発電所では、残存資産の合計が1基あたり200億円以上にのぼる(図4)。国内には50基以上の原子力発電設備がある。新しい発電設備ほど残存資産は多くなるため、全体では軽く1兆円を超える。
一方の解体引当金のうち2015年度末で引き当てが完了していない額は1基あたり最低で29億円、最高で733億円ある(図5)。今後も電力会社が引き当てを続けていくが、計画外廃炉を決定した場合には残りを託送料金で回収する方向だ。
原子力発電設備の残存資産と解体引当金を合わせた廃炉費用の総額は計画外廃炉の進展によって変わってくるが、廃炉が早く進むほど国民の負担が増える構造になる。原子力発電を可能な限り早く廃止したい多くの国民にとっては不条理な制度である。
このほかにも原子力発電に関連する費用で、託送料金に加わる可能性が大きいものが残っている。事故を起こした福島第一原子力発電所の廃炉費用と損害賠償費用だ(図6)。東京電力は両方を合わせて11兆円を想定していたが、それを上回る額に膨れ上がることが確実になってきた。
現在の政府案では、東京電力グループが稼ぎ出す利益を第三者機関が管理して廃炉費用に充当する(図7)。送配電事業会社の東京電力パワーグリッドが想定以上の利益を出した場合には、本来であれば託送料金を引き下げる必要があるが、引き下げを実施しないで利益を廃炉費用に回す方策を検討中だ。結果として新電力を含む東京電力管内の利用者が廃炉費用を負担することになる。
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