2040年のエネルギー、日本はどうなる法制度・規制(2/3 ページ)

» 2016年11月21日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

パリ協定を守っても気温が上昇する

 だが、明るい未来に至るかどうか、その前に2つの関門がある。第一の関門は、地球温暖化対策のための新しい国際ルールである「パリ協定」を各国が忠実に守ること。図1の数字は守った結果だ。2016年11月4日に発効したばかりのパリ協定がどこに行き着くのか、米国の新たな方針がはっきりしない現在、不安がよぎる*6)

 第二の関門はさらに厳しい。例えパリ協定が完全に守られたとしても、まだ温暖化目標には到達しないのだ。

 WEO 2016では、図1の予測が全て当てはまったとしても、2100年の気温上昇を産業革命以前と比較して2℃以内にとどめることはできないと指摘している(図2)*7)

*6) パリ協定が守られなかった場合、2100年の平均気温の予測値は最大4.8℃上昇する。
*7) パリ協定では平均気温上昇を2℃未満の1.5℃に抑えるため、今世紀後半に温室効果ガスを実質0にすることをうたっている。実効性を高めるため、各国が国連に削減目標を提出し、5年ごとに目標を更新することも定めている。

図2 パリ協定が守られた場合(赤い線)と2℃目標への道筋(白い線)の比較 縦軸:年間二酸化炭素排出量(ギガトン)、横軸:西暦 出典:IEA

 図にはパリ協定が守られた場合の平均気温の上昇量が描かれていない。数値としては2.7℃だ。わずか0.7℃の違いに見える。だが、農業はもちろん、生活や防災などに与える影響は大きいとされている*8)

 図中の赤い線がパリ協定の結果、白い線が2℃目標実現への道だ。早めにパリ協定を超える政策を打ち出さない限り、2℃という目標に到達できないことが分かる。

 図中には黄色い文字で2100年時点、発電部門における二酸化炭素排出量を実質0(carbon-neutral)にしなければならないとある。パリ協定後の対応が遅れると、実質0にしなければならない日付がどんどん前倒しになる形だ。WEO 2016では、今後数年間のうちに年間二酸化炭素排出量を右肩下がりに変えなければならないと指摘した。

 WEO 2016にはパリ協定をさらに改善する道筋が示されている。IEAのエグゼクティブ・ディレクターを務めるFatih Birol氏は発表資料の中で次のように述べている。「再生可能エネルギーは、今後数十年の間に非常に大きな進歩を遂げるが、そのメリットは主に発電に限られている。再生可能エネルギーの次の道は、成長の可能性が非常に高い産業や建築、輸送分野での利用を拡大することにある」。

 図1に示した電気自動車(輸送)だけでなく、設計から廃棄までライフサイクル全体にわたって二酸化炭素を排出しない建物や、製造業が必要になるということだ。WEO 2016では冷蔵庫から産業機械にわたるまで、さまざまな規模の電動モーターシステムの効率改善が有効だと指摘している。インダストリアルIoTを用いた予知保全の重要性にも触れた。産業用機器の効率(稼働率)を大幅に高めることが可能だからだ。

*8) 主要作物を栽培する地域を地図上に描くと、ゆがんだ帯状の分布を示す。これは作物の栽培に気温(と降水量)が大きな影響を与えるためだ。平均気温が上昇するとこの帯が北(南半球では南)に移動する。このとき、移動した先の土地が既に他の目的に使われていたり、降水量の不足・劣った土壌といった欠点があった場合は、多大な資金を投入したとしても農業を維持できなくなる。

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