水素をもっと簡単に生成、低温で可能な新しい触媒反応蓄電・発電機器

早稲田大学は150度の低温度でメタンから水素を生成することに成功したと発表した。一般にメタンの水蒸気改質で水素を生成する場合は、700度程度の高温環境が必要になる。こうした反応を低温でも可能にすることで、生成コスト低減や簡易な水素製造への実現が期待できるという。

» 2016年12月05日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 早稲田大学理工学術院 関根泰教授らの研究グループは2016年12月1日、150度程度の低温度でメタンから水素を生成することに成功したと発表した。メタンと水蒸気のパラジウム(Pd)触媒を用い、反応系に弱電場をかけると低温度でも十分な速度で水素を生成できることを立証。この技術を活用することで、水素を簡便に生成しやすくなるという。

 化学反応の約9割程度は触媒反応である。触媒は反応速度を向上させるが、反応速度は一般には温度と活性化エネルギーに依存する。そのため、多くの触媒反応は高温で実施される。現在の水素製造は天然ガスの水蒸気改質反応により行われるが、この反応は天然ガスの主成分であるメタンと水蒸気の反応により二酸化炭素と水素を得る吸熱反応だ。一般的にこの反応は700度以上で行われている。

 この場合、水素の生成には高温環境が必要になる。そのためには高い耐熱性を有する材料を用いて生成プロセスを構築する必要が有ること、高温に長時間さらすことによる触媒の劣化、高温の熱を使い切るための多段の熱交換器の設置など、コスト増につながる要素が多く、実用には大きな障害があった。

 研究グループではこうした課題を解決する方法の1つとして、以前から弱い電場中における触媒反応に着目。これによりメタンの水蒸気改質のような高温を必要としてきた反応を、150〜200度といった低い温度でも充分に速い速度で進行させられることを発見していたが、そのメカニズムは明らかになっていなかった。

 今回の研究では、電場の中で反応中の触媒の状態を観察することで、触媒表面に吸着した水を介して、プロトンが速やかに動き、プロトンの表面ホッピングが低温でも反応を促進していること、さらにこのプロトンと吸着分子との衝突が不可逆過程を生み出していることを発見し、新しい触媒反応メカニズムの立証に成功した(図1)。

図1 立証した反応のイメージ 出典:早稲田大学

 この触媒反応の応用範囲は広く、プロトンが絡む触媒反応であれば、水素製造だけでなく、水素が絡む反応や水が絡む反応を低温化させられる可能性があるとしている。また、従来の触媒反応に対し、外部から電極を挿入して電場を印加するだけで簡易に実施できるメリットもある。なお、現時点では水素と窒素からアンモニアを創り出す反応にも本メカニズムが適用可能であることがわかっているという。研究グループでは排気ガスと燃料を低温で反応させて自動車の総合エネルギー効率の向上を狙った研究を展開中だ。

 なお今回の研究成果は英Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に、2016年12月1日(現地時間)に掲載された。

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