世界初の地熱+水力ハイブリッド発電、地下に戻す熱水で電力を増やす自然エネルギー(1/2 ページ)

火山地帯の米国ユタ州にある地熱発電所で、世界で初めて水力を組み合わせたハイブリッド型の発電設備が運転を開始した。地下からくみ上げた蒸気と熱水を利用して発電した後に、地下に戻す熱水の流れでも発電する。発電量を増やせるメリットに加えて、熱水による設備の破損を防ぐ効果もある。

» 2016年12月08日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 世界初の地熱+水力によるハイブリッド発電は、米国ユタ州の南西部にある「コブフォート(Cove Fort)発電所」で12月6日に始まった(図1)。周辺には古くからの火山地帯が広がり、世界的に有名な「ザイオン国立公園」をはじめ雄大な景観で知られる場所だ。コブフォート発電所は2013年に地熱による発電を開始している。

図1 「コブフォート発電所」の全景。出典:Enel Green Power

 発電所を運営するエネル・グリーン・パワー(Enel Green Power)はイタリアを中心にヨーロッパ、北米・南米など世界各地で再生可能エネルギーによる発電設備を展開している(図2)。米国では水力・地熱・風力・太陽光の4種類を実施中で、複数の再生可能エネルギーを組み合わせたハイブリッド発電技術の実用化にも力を入れている。

図2 世界に展開するエネル社の発電設備の規模(画像をクリックすると拡大)。GW:ギガワット(=100万キロワット)。出典:Enel Green Power

 コブフォート発電所では地下からくみ上げた蒸気と熱水を使って、バイナリー方式(低温で蒸発する媒体を利用する方式)で発電する(図3)。発電に利用した後の熱水は地下に戻すために、地中深くまで掘削した還元井(かんげんせい)に流し込む。この大量の熱水の流れを利用して、水力で発電するハイブリッド技術を実用化した。

図3 地熱発電の冷却塔。出典:Enel Green Power

 稼働前の7月〜9月に実施したテストでは、水力発電で100万kWh(キロワット時)の電力を生み出すことができた。この電力量は発電所の内部で消費するエネルギーの9%に相当する。発電所内のエネルギー効率を高めて、外部に送電できる電力量を増やす効果がある。

 コブフォート発電所は地熱を利用して25MW(メガワット)の電力を供給できる。年間の発電量は1億6000万kWhに達して、米国の一般家庭の使用量(年間1万2000kWh)に換算すると1万3000世帯分を超える。新たに追加した水力発電がテスト期間中と同等の電力を供給できると、発電量は約2%増加する見込みだ。

 さらに還元井に水力発電機を設置したことによって、地下に戻す熱水の流れを制御できるメリットもある。地下からくみ上げた熱水は塩分を含んでいるため、還元井に戻す時に勢いよく飛び散って設備の破損につながる可能性がある。水力発電機で熱水の流れを抑制できると破損のリスクが小さくなる。

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