燃料電池とCO2フリー水素が全国へ、空港にホテルに競馬場にも2017年のエネルギートレンド(3)(3/4 ページ)

» 2017年01月11日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

福島県に世界最大の水素製造装置

 再生可能エネルギーの電力からCO2フリーの水素を製造する試みでは、福島県で検討が始まったプロジェクトに注目が集まる。政府が「福島新エネ社会構想」の重点施策の1つとして、世界最大の1万kW(キロワット)級の水素製造装置を2020年までに運転開始する計画だ。合わせて首都圏まで水素を輸送する技術を実用化して、東京オリンピック・パラリンピックの会場や燃料電池自動車に供給する(図8)。

図8 福島県産のCO2フリー水素を東京都で活用するイメージ(上)、福島県内で開発・実証する水素エネルギーシステムの構成(下)。FREA:福島再生可能エネルギー研究所。出典:福島県ほか

 すでに東芝・東北電力・岩谷産業の3社が政府の支援を受けて必要な技術の開発に着手した。水素の製造・貯蔵・輸送システムに加えて、送配電ネットワークの制御システムや水素の需給予測システムも開発する。完成すれば日本の水素エネルギーの普及に一気に弾みがつく。

 このプロジェクトと並行して、国の産業技術総合研究所がCO2フリー水素の製造・貯蔵・利用システムを福島県内で実証運転中だ(図9)。太陽光や風力で作った電力から水素を製造したうえで、トルエンやアンモニアを使って水素を液化して貯蔵する。さらに液化した水素を気体に変換して、コージェネレーションシステムで電力と熱を生み出すこともできる。

図9 福島県内で実証運転中の水素製造・貯蔵・利用システム(画像をクリックすると拡大)。MCH:メチルシクロヘキサン。出典:産業技術総合研究所

 福島県内で実施する2つのプロジェクトの技術を組み合わせれば、再生可能エネルギーの電力から大量の水素を製造して、液化した状態で東京まで輸送して燃料電池に供給することが可能になる。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは会場や選手村に燃料電池を設置するほか、交通手段として燃料電池自動車や燃料電池バスを利用する計画が進んでいる。

 東京都の交通局は2020年までに100台以上の燃料電池バスを導入する予定だ。2017年から2台の「トヨタFC(燃料電池)バス」を都内で運行して実用性を検証する(図10)。このバスに搭載する水素タンクの容量は燃料電池自動車の「MIRAI」の5倍もあり、200キロメートル以上を走ることができる。

図10 「トヨタFC(燃料電池)バス」の外観(上)、災害時の外部給電システム(下、画像をクリックすると拡大)。出典:トヨタ自動車

 加えて災害時には最大9kWの電力を外部に供給できる機能もある。満タンの状態で発電量は235kWh(キロワット時)になり、一般家庭の使用量(1日あたり10kWh)に換算して23.5世帯分に相当する。もし100台の燃料電池バスに水素が満タンになっていれば、1日で2350世帯分の電力を供給することが可能だ。大都市の非常用電源の1つとして活用できる。

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