国土交通省の海事局とオーストラリアの海事安全局は液化水素を輸送する専用タンカーの安全基準に関して、1月11日に確認作業を完了した。これにより2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて液化水素運搬船を建造・運航できる環境が整った(図1)。
両国が推進するプロジェクトはオーストラリアのビクトリア州に大量に存在する褐炭からCO2(二酸化炭素)フリーの水素を製造して、液化した状態で日本までタンカーで輸送する構想だ。褐炭は石炭化の経過年数が短かくて水分が多いために、現地で発電に利用する以外に用途がなかった。
褐炭を改質して水素を製造する技術が進んできたことから、新たなエネルギー源として注目を集め始めている(図2)。オーストラリアでは褐炭から水素を製造する工程で排出するCO2を回収して、古い天然ガス田に貯留するプロジェクトにも取り組む。
日豪の政府は国際海事機関が採択した液化水素タンカーの暫定的な安全基準に従って運搬船の建造を促進する。第1弾として川崎重工業が実証船を建造して2020年に就航する予定だ。すでに川崎重工業は「技術研究組合 CO2フリー水素サプライチェーン推進機構」(略称:HySTRA)を通じて、CO2フリーの水素を海上で輸送するサプライチェーンの実証事業に着手している(図3)。
CO2フリーの水素を製造する方法は大きく分けて2通りある。化石燃料を改質して水素を取り出す方法と、再生可能エネルギーの電力で水を分解して製造する方法だ。加えて大量の水素を輸送する手段の研究開発が進んでいて、主な方法は3種類ある(図4)。このうち日豪を結ぶ水素サプライチェーンの実証プロジェクトでは、マイナス253度の超低温で水素を液化する方法を採用する。
川崎重工業はLNG(液化天然ガス)を運搬するタンカーを長年にわたって建造してきた実績がある。ただしLNGはマイナス162度で液化して輸送できる。液化水素はLNGよりも100℃近く低い温度で運搬するために、専用のタンカーを建造するには新たな技術開発や安全基準が必要になる。
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