石炭火力発電所に対する環境規制が、作物の収量を改善することが分かった。石炭火力発電所などが排出する窒素酸化物がオゾンを生み出し、作物や樹木にも悪影響を与えるからだ。地球温暖化対策や大気汚染防止策が、農業にもよい影響を与える。
石炭火力発電所は環境に与える影響が大きい。このため、規制強化が進んでおり、規制に対応するためのコストが大きくなっている。
二酸化炭素はもちろん、燃焼時の熱によって生成する窒素酸化物や、石炭にわずかに含まれていた硫黄に由来する硫黄酸化物も悪役だ。二酸化炭素は温室効果ガスであり、残りの2つはヒトの健康を害する。
このような規制には温暖化防止や医療費削減以外の利益もあることが分かった。農業と林業だ。
米Drexel大学など複数の大学の研究者からなる研究チームが2017年1月4日に発表した内容によれば、石炭火力発電所には農作物の生産量や材木の生産量を引き下げる悪影響があった。それもかなりの。
農作物に悪影響を及ぼす第一の原因は石炭火力発電所が排出する窒素酸化物だ。ただし、窒素酸化物自体が生産量を引き下げるのではない。
太陽光に含まれる紫外線によって、酸素と二酸化窒素から対流圏中でオゾンが発生する。このオゾンはオゾン層として知られるオゾンとは異なり、地表で植物の葉などを蝕む*1)。
地表近くに存在するオゾンは米国では6月から8月に最大濃度に達する。この時期に成長する5つの作物について、コンピュータモデルを用いて影響を調べた*2)。
特に4つの作物に対する影響が印象的だ。図Aに取り上げたトウモロコシ、綿花、ジャガイモ、ダイズである。
これらの農産物に与える影響は全世界の食糧貿易をも左右するといえるだろう。
*1) オゾンを含む光化学オキシダントによって、日本でも夏季に光化学スモッグが発生している。光化学スモッグは目や呼吸器を害する他、植物の葉が枯れといったる悪影響がある。
*2) 環境調査の標準指標として用いられている11種類の樹木に対する影響も調べた。
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