農業や林業に悪影響、石炭火力自然エネルギー(2/3 ページ)

» 2017年01月17日 14時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

便益がコストを上回る

 コストをかけて石炭火力発電所の排出物に規制をかけた場合の便益、特に農業での便益はどの程度なのだろうか。米Syracuse大学の教授であり、論文の共著者であるCharles Driscoll氏は発表資料で次のように語っている。今回の研究や他の調査から、発電所に新たな炭素基準(規制)を当てはめることによって生じる経済的価値は大きく、対策に必要な推定コストを上回る。

 Drexel大学College of Engineeringで助教を務め、論文の筆頭著者であるShannon Capps氏は同じく次のように語っている。今後数年間、これらの作物の市場価値の変動に応じて、特に発電所が地表近くのオゾン濃度に強い影響を与えているオハイオ川渓谷(インディアナ州、オハイオ州、ケンタッタッキー州、ウェストバージニア州などにまたがる領域)のような地域では、農家が数千万ドルの利益を得られる可能性があると。

 研究グループは従来の対策を参照シナリオとして、何らかの追加対策を追加した場合、農作物の収量にどのような変化が起こるのかを調べた。

 対策シナリオは3つある。シナリオ1は発電所自体の効率改善だ。シナリオ2は需要側のエネルギー利用効率を改善し、さらに発電エネルギーミックスのメニューから石炭火力を外し、代わりに二酸化炭素排出量の少ないガス火力や、そもそも二酸化炭素を発電時に排出しない太陽光発電や風力発電に置き換えたもの。シナリオ3はシナリオ2と同様の排出抑制を試み、さらに炭素税を追加したものだ。

 それぞれのシナリオを採用した場合、2020年のさまざまな物質の排出量がどのように変化するのか、研究グループの結論を図1にまとめた。

 図1の最下行にあるオゾン量は濃度ではなく、濃度に重み付けを施した暴露指数(W126)の値。オゾン濃度が高い場合には、植物への悪影響が急速に大きくなる効果を加味した値だ。最大減少量を示した。

 発表論文ではW126値の地理的な分布も示しており、シナリオ2やシナリオ3を適用すると、ユタ州やコロラド州などの西部やケンタッキー州などの南部で効果が高いことが分かった*3)

*3) 参照シナリオではカリフォルニア州南部(W126の最大値56ピーピーエム時、ppm時)や米国西部のオゾン量が多い。いずれのシナリオでもカリフォルニア州南部のオゾン量はほとんど削減できない。シナリオ1ではppm時の削減量は0.1程度だが、シナリオ2では西部や南部を中心に0.5〜1.0程度の削減量が見られる。シナリオ3の地域的な削減量分布はシナリオ2と似ている。全体的な削減量自体は少ないものの、最大の削減量を示した地点では5.33ppm時に達した(揺れ幅が大きい)。

図1 参照シナリオと比較した3つのシナリオの効果 対策コストの低いシナリオ1でも効果がある 出典:以下の論文にあるデータに基づき作成。S.L.Capps et.al,"Estimating potential productivity cobenefits for crops and trees from reduced ozone with U.S. coal power plant carbon standards", Journal of Geophysical Research Atmospheres doi:10.1002/2016JD025141

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