オール水素で電力と湯、家庭向け水素ボイラー自然エネルギー(1/2 ページ)

純水素で動作する燃料電池の実用化が進んでいる。ただし、システム全体では都市ガスなどを使う必要があった。長府工産は貯湯(加熱)用の水素ボイラーを開発。オール水素で動作するシステムの実証実験を開始した。

» 2017年01月20日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 水素だけで電力を得、給湯もまかなう。このような取り組みがまた一歩進んだ。長府工産は水素燃料だけで稼働する純水素型家庭用燃料電池システムに向けて、貯湯ユニットと水素ボイラーを開発、2017年1月16日から実証実験を開始した。

 世界初の取り組みであり、オール水素のコージェネレーションシステムの実現なのだという。電気と熱を合わせた総合効率は95%に達する。

図1 山口県周南市で実証実験を開始 2018年3月まで継続する

 純水素型燃料電池には、都市ガスを利用する「エネファーム」と比較した場合起動時間が短いという特徴がある。エネファームでは都市ガス(メタン)から水素を生成するため、改質器を加熱する必要がある。このため、初期起動に1時間程度必要だ。今回のような純水素型燃料電池であれば、2分以内で起動する。

 実証実験の現場は、岩谷産業のグループ企業であるグリーンガス運輸の山口事業所(山口県周南市古泉、図1)。同社は液体水素をトラック輸送するための供給拠点。「事務所の電力の他、給湯室や運転手向けのシャワー室へ湯を供給できる」(長府工産品質管理課の宮川清彦氏)。

毎分5リットルの湯を連続使用可能

 家庭向けの利用をイメージしているため、実証実験では屋外に機器を設置した。電気出力が700Wのシステムだ。

 図2が実証実験の現場(背景は他社)。図中左が圧縮水素ボンベを6本格納した「水素シリンダー」。ボンベの容量は1本当たり7立方メートル(m3)。液体水素ではなく、別途圧縮水素を調達した。

図2 実証実験の現場の様子 出典:長府工産

 右から2番目の背が高い箱(高さ1651mm、幅634mm、奥行き395mm)が、「純水素型家庭用燃料電池システム用貯湯ユニット」*1)。給湯能力は8.7kWであり、「水温+25℃」の湯を毎分5リットル連続供給可能だ(5号)。貯湯タンクの容量は90リットルである。ここに60〜85℃の湯を蓄える。

 給湯効率は95%(低位発熱量基準、LHV:Lower Heating Value)。このとき、1分間に51ノルマルリットル(9.2kW)*2)の水素を消費する。

 「当社は石油給湯器(ボイラー)を量産しており、ボイラーの知見がある。今回の貯湯ユニットには、各種の安全装置も組み込んだ。水素に長期間さらされると材料が変質する可能性があるため、部材の品質や接続部はもちろん、どの部品を定期メンテナンス対象とすべきか、実証実験を続けることで絞り込んでいく。家庭用として製品化を狙っているため、コストとの兼ね合いが重要だ」(宮川氏)。

 一般に水素炎は非常に高温になると捉えられている。「当社は岩谷産業の中央研究所と共同で水素バーナーの評価を行い、空気供給量を調整することで、1200℃の燃焼を保つことができた。この温度であれば都市ガス用のバーナーと同様の扱い方ができる」(同氏)。

 中央の背が低い箱は流量などを計測するデータ計測ユニット。左端が東芝燃料電池システムの発電ユニットだ。

*1) 貯湯タンクに熱交換器を内蔵。貯湯タンクが満杯の場合でも発電が継続できる放熱運転モードも搭載した。
*2) 水素は温度や圧力によって体積が変化するため、1気圧0度の水素51リットルを意味する。

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