北九州の荒波の上で洋上風力発電、自動車工場には太陽光と水素エネルギー列島2016年版(40)福岡(1/4 ページ)

福岡県では太陽光発電と水素エネルギーの導入が活発なうえに洋上風力発電の取り組みも進む。沖合で稼働中の洋上風力発電所の周辺に大型風車を展開して一大拠点を形成する構想だ。陸上では農業用ため池に太陽光発電が広がり、自動車工場では太陽光から水素を製造するプロジェクトが始まる。

» 2017年01月31日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 日本海から強い風が吹きつける北九州の海は、年間を通して荒波が発生する場所として有名だ。北九州市が臨海工業地帯を対象に2013年に開始したエネルギー産業拠点化プロジェクトの一環で、沖合に洋上風力発電所を展開する構想が進んでいる(図1)。

図1 北九州市のエネルギー産業拠点化計画(上、画像をクリックすると拡大)、洋上風力発電所の展開イメージ(下)。出典:北九州市港湾空港局

 北九州市の沖合ではNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2013年から、発電設備を海底に固定する着床式による洋上風力発電の実証研究を続けている。水深14メートルの海域に発電能力が2MW(メガワット)の大型風車と観測タワーを設置して、発電量や風速、安全性や環境に対する影響を評価中だ(図2)。風車の回転直径は83メートルに及ぶ。

図2 着床式による洋上風力発電の実証設備と設置場所。出典:NEDO

 NEDOがまとめた観測結果によると、年間の平均風速は7.1メートル/秒に達して、洋上風力発電に必要な条件(7メートル/秒)をクリアした。年間の発電量は444万kWh(キロワット時)で、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は28.5%である。洋上風力発電の標準値30%を少し下回るものの、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して1200世帯分の電力を風車1基で供給できることを実証した。

 さらに洋上風力発電の拡大に向けて、北九州市はエネルギー産業拠点化プロジェクトを展開する臨海工業地帯の響灘(ひびきなだ)の港湾区域を対象に発電事業者を公募中だ(図3)。陸地から最長で10キロメートル離れた海域の占用許可を事業者に与えて、洋上風力発電所の建設を促進する。2017年1月以降に事業者を選定する予定になっている。

図3 洋上風力発電を計画中の響灘の港湾区域。出典:北九州市港湾空港局

 北九州市の構想では全体で2700万平方メートルに及ぶ広い海域に、発電能力が50MW以上の洋上風力発電所を建設する方針だ。洋上の発電設備から海底ケーブルを敷設して陸上まで電力を送る。建設開始は2021年4月以降を予定している。構想どおりに発電できれば、一般家庭の3万5000世帯分を超える電力を洋上から供給できる。

 このプロジェクトに先立ってNEDOが浮体式による実証設備を沖合に建設して環境影響評価を実施する。沖合の海域には水深50メートル以上の場所が広がっていて、着床式ではなくて浮体式の洋上風力発電設備を導入する必要がある。NEDOは発電能力が3MW程度の大型風車2基を設置して実証研究に取り組んでいく(図4)。

図4 着床式(左、実証運転中)と浮体式(右、計画中)の洋上風力発電設備。出典:NEDO

 今のところ浮体式の洋上風力発電所を大規模に展開する計画は国内のみならず海外でも見あたらない。福島県の沖合で実証運転中の3基の洋上風力発電設備が合計14MWで世界最大の規模だ。北九州市が浮体式の洋上風力発電で世界をリードする期待がふくらむ。

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