再エネ利用の幅を広げる「アンモニア」、合成しやすい新触媒自然エネルギー

再生可能エネルギーで製造した水素を、貯蔵・運搬しやすくするエネルギーキャリアとして期待されているアンモニア。大分大学と京都大学らの研究グループはこのアンモニアを、再生可能エネルギーの利用に適した条件で合成できる新しい触媒の開発に成功した。

» 2018年02月05日 09時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 大分大学と京都大学らの研究グループは2018年1月、再生可能エネルギーの利用に適した温和な条件で、高いアンモニア合成活性を示す新規触媒の開発に成功したと発表した。ランタンとセリウムの複合希土類酸化物を還元した担体に、ルテニウムを担持した酸化物担持型触媒で、必要なときにアンモニアを合成できる小型生産プロセスの実現を後押しする成果だという。

 太陽光や風力などの再生可能エネルギーの貯蔵方法として、水素の活用に注目が集まっている。ただ、水素は高圧かつ低温で貯蔵・輸送する必要があり、コストがかかる。そこで再生可能エネルギーで製造した水素を、貯蔵・輸送しやすい異なるエネルギーキャリアに置き換える手法が期待されている。このエネルギーキャリアの1つとして期待されているのが、アンモニアだ。アンモニアはそのまま燃やしても、分解して水素を燃やしても窒素と水しか生成されない。

 現在アンモニアは一般に、鉄系の触媒を利用して窒素と水素のガスから合成されている。ただし、こうした一般的な手法では高温高圧のプロセスが必要になる。水素のエネルギーキャリアとして、天候によって変動する再生可能エネルギーの活用を考えた場合、常にこうした高温高圧の環境を用意することは現実的ではない。そこで、より利便性に富む温和な条件でアンモニアを効率的に得られ、安定かつ取り扱いも容易な触媒の実現が求められていた。

 大分大学の研究グループは、これまで希土類の酸化物にルテニウムを担持した触媒に注目した開発を進めてきた。今回、希土類の一種であるランタン−セリウムの複合酸化物にルテニウムを担持し、これを従来知られていた500℃以下の最適値よりも高い650℃で処理し、新しい触媒(Ru/La0.5 Ce0.5 O1.75-x)を開発した。

開発した新触媒の模式図。ランタンとセリウムの複合酸化物上に微細なルテニウム粒子が担持され、さらに還元された担体が部分的にルテニウムナノ粒子を覆っている 出典:大分大学

 開発した触媒は、生成速度換算で従来型の酸化物担持ルテニウム触媒の2倍以上という、非常に高いアンモニア合成活性を示し、高効率にアンモニアを得られるという。また、従来型ルテニウム触媒で問題となっていた水素による被毒の影響を受けにくく、10気圧程度の圧力でアンモニア合成速度が飛躍的に向上する特性を持つ。

開発した触媒と従来型の酸化物担持ルテニウム触媒によるアンモニア生成速度の比較 出典:大分大学

 新しい触媒に利用したルテニウム、ランタン、セリウムは比較的安価で工業的にも広く利用されている元素。さらに、簡便な手法で調製できる触媒で、大気中でも安定なため取り扱いも容易というメリットがあるという。研究グループは今回の成果について、再生可能エネルギーの供給に合わせ、必要なときにアンモニアを合成できる小型アンモニア生産プロセスの実現が期待できるとともに、今後さらに高活性なアンモニア合成触媒の創製も見込めるとしている。

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