電力を生かした新サービスの創出に向けて、エネルギー業界でもその活用に注目が集まっている人工知能(AI)。顧客向けのサービスにAIの活用を進めている中部電力は、一体どのような取り組みを行っているのか?
電力・ガス自由化で市場競争が加速し、顧客に対するより付加価値の高いサービスの開発が急務となっているエネルギー業界。その中で、新しいサービスや付加価値の創出に、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の活用を模索する動きが広がっている。中部電力もそうした取り組みを進める1社だ。同社はAI技術開発を手掛ける2012年設立のベンチャー企業「ABEJA」(東京都港区)と協力するなど、エネルギーとAIを組み合わせた新しいサービスの開発に注力している。
本稿では、2018年2月22日に東京都内で開催されたABEJAのプライベートイベント「ABEJA SIX2018」で、中部電力 技術開発本部 研究企画グループ課長の高村幸宏氏が講演した、同社のAIとスマートメーターを活用した省エネアドバイス機能の開発背景について紹介する。
中部電力では、AIとスマートメーターからの情報を活用した「省エネアドバイス機能」を、同社と電力供給契約を結ぶ一般家庭を対象とした会員向けWebサービス「カテエネ」に実装する計画だという。
現在、カテエネはWebサイト上で電気・ガス使用量や料金の確認ができることに加え、電気・ガス料金の支払いなどに応じてたまるポイントサービスなどを提供している。法人を対象としたサービス「ビジエネ」とカテエネを合計したユーザー数は、2018年1月末時点で189万人。これらサービスは、顧客の節電意識を向上させるとともに顧客満足度の改善につなげる“窓口”として、同社の営業戦略における重要な顧客基盤となっている。
カテエネでは、スマートメーターから得られる各種データを基に当月の使用量や料金を、自宅の昨年同時期の実績値や似た家族構成の平均値と比較、見える化する「省エネ分析レポート」機能を持つ。
この比較、見える化によって顧客の省エネ意識向上について、高村氏は「さらにさまざまな解析をすることによって、さらに顧客のニーズに答えられるのではないか」と話す。例えば「短時間だけ外出する場合、エアコンの電源は切った方が省エネなのか?」といった疑問に対して、データ分析に基づく正しいアドバイスを行えれば、顧客の利便性や満足度はさらに高まるのではないかという考えだ。
中部電力の研究所が行った、ある条件における実験結果によれば、上記の問いの答えは「短時間であっても電源を切った方が省エネ」(高村氏)になるというが、とあるエアコンメーカーが行った別の条件における実験では「電源を入れたままの方が省エネ」(同氏)になる結果が出ているという。
高村氏はこのように、より省エネとなる行動はその時々の環境や状況によって異なり、画一的な回答が正しいわけではない場合があると指摘。同社では「我が家ならどちらの方が正しいのか。そういった問いに対して、それぞれの顧客のデータ解析を行い(顧客に沿った正しい回答を)提供できないだろうか」(高村氏)との思いがあったと話し、これが各家電の電力使用量を分析・見える化する機能を開発するモチベーションとなったという。
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