ITでエネルギーを“モノからコト”に、東京電力が新電力ベンチャーと新会社電力供給サービス

東京電力エナジーパートナーは新電力ベンチャーのパネイルと共同で、電力・ガス小売り事業を手掛ける新会社を設立。「エネルギーとITの融合」を掲げ、電力・ガスの“モノからコト化”を目指すというその戦略とは?

» 2018年04月25日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 東京電力ホールディングス(東電HD)が、電力・ガスの小売事業におけるサブブランドの拡充を進めている。2018年3月には東電HD傘下として、家庭向け電力販売を行うベンチャーTRENDE(トレンディ)の設立を発表。さらに2018年4月24日には東京電力エナジーパートナー(EP)が、電力事業向けクラウドサービスの開発や電力販売を手掛ける新電力ベンチャーのパネイル(東京都千代田区)と共同で、電力・ガス小売りを手掛ける共同出資会社PinT(ピント、東京都千代田区)を設立すると発表した。東電EPが他の新電力と共同出資会社を設立するのは初となる。

左からパネイル 代表取締役社長 名越達彦氏、PinT 代表取締役社長 田中将人氏、東電EP 常務取締役 田村正氏

 PinTの資本金は8億円で、東電EPが60%、パネイルが40%の比率で出資。代表取締役社長には東電EPで電力小売事業の経験を持つ田中将人氏が就任した。2018年6月1日から沖縄を除く全国で低圧向けの「PinTでんき」の販売を開始し、2020年度末までに150万件の顧客獲得を目指す方針という。都市ガスについては、2018年度中に関東エリアで提供を開始し、その後関西や中部エリアに広げていく計画だ。

「IT×エネルギー」で電力・ガスを“コト”として提供

 PinTが自社の特徴として挙げるのが、電気やガスと、金融や不動産など異なる業界のプラットフォームを組み合わせたサービスの提供だ。田中氏は「電力やガスを単に“モノ”として計り売るのではなく、新しい価値として、電気やガスでできる“コト”を提供していく。そのために、PinTではあらゆる業界の事業者との提携も積極的に進めていく」と話す。料金価格そのもので勝負するのではなく、付加価値や新しいサービスで差別化を図る戦略だ。そして、こうしたサービス創出のエンジンとして、「ITとエネルギーの融合」を掲げる。

 例えば、家庭向けのPinTでんきに先駆けて2018年5月1日から提供する「PinT with 賃貸」は、不動産管理会社向けのプランとなる。所有物件における複数居室の電気契約を専用Webサイトから一括で行えるのが特徴という。不動産管理会社は、これまでのように入居者が入れ替わるたびに電力会社に契約変更の連絡をせずに済む他、複数居室の請求書を一本化できるため、事務処理手続きを効率化できるといったメリットを訴求したプランだ。

「PinT with 賃貸」のイメージ

 追って提供を開始するPinTでんきの料金単価は、各地域の電力会社の従量電灯や低圧電力と同一に設定。ただし、毎月の電気料金の総額に応じて段階的に割引きを提供するという料金体系になっている。割引率は最大7%で、複数の住宅や施設の料金をまとめて支払うことも可能なため、合計の支払総額が多いユーザーほどお得になる。

 さらに将来の提供予定のサービスとして、太陽光発電を導入している家庭の余剰電力を、PinT側で“預かる”というユニークなプランも計画している。具体的には、太陽光発電を導入している住宅から、家庭の消費電力量と太陽光パネルの発電(売電)量のデータなどを提供してもらい、住宅で使い切れない余剰電力分を、一時的にPinTが“預かった”とみなす。そして預かった電力は、その家庭が実際に使用するときに返したり、他の家庭とシェアできるようにしたりするというものだ。2019年以降、住宅用FITの買取期間が終了する家庭が急増することを見越し、蓄電池を導入していない住宅でも、太陽光の余剰電力を有効活用できるようにする狙い。

 このサービスは東電EPが2018年2月に実証実験に着手することを発表している。今後PinTもこの実証に参加し、具体的なサービスの提供の仕組みや、料金プランなどを検討していくという。

太陽光発電の余剰電力を預かる新サービスのイメージ

東電EPがパネイルをパートナーに選んだ理由

 PinTに東電EPと共同出資するパネイルは、2012年の設立のベンチャー企業。同社が強みとする主力製品が、電力事業向けのクラウドプラットフォーム「Panair Cloud(パネイルクラウド)」だ。クラウドベースのサービスで、人工知能(AI)を活用し、営業、顧客管理、受給管理、請求など、電力事業に必要な各種業務のオペレーションを効率化できるのが特徴という。

 同社は新電力として、電力販売事業も手掛けている。全国に電力販売事業を行うグループ会社を7社展開しており、パネイルの代表取締役社長を務める名越達彦氏は、「Panair Cloudはこうした実際の小売事業を通して、“現場目線”でブラッシュアップを重ねてきた」と話す。

「Panair Cloud」のイメージ

 今回東電EPがパネイルを新会社設立のパートナーに選んだ理由はどこにあるのか。同社の常務取締役 田村正氏は「パネイルは以前からAIやビッグデータの活用など、IT分野おいて卓越した企業として大変注目していた」と話す。また、「電力・ガスを軸に“気の利いた”サービスを展開していくというのがPinT狙い。そこでパネイルの持つ、電力業務のオペレーションの高速化に関する強みが生きてくると考えている」(田村氏)という。

 さらに、パネイルのベンチャー企業としての“スピード感”にも期待を寄せる。「今回、PinTが提供するプランは、全国一斉に展開するというのがコンセプトの1つだった。こうしたスピード感というのは、この座組みでしか成立しないだろうと考えている。東電EPの持つ電力販売のノウハウと、パネイルの技術やベンチャー企業としてのスピード感を融合させ、新しいサービスを創出していきたい」(田村氏)

“カニバリ”は気にせず、将来の”東電EPグループ”のシナジーに期待

 東電HDの中で小売事業の“本体”である東電EP、同社とリクシルの共同出資会社であるLXIL TEPCO スマートパートナーズ、テプコカスタマーサービス、今回設立したPinT、さらに東電HD傘下のTRENDE――。東電EP内だけでみても、電力販売事業を手掛けるプレイヤーは続々と増えている。当然ながら一部ではグループ内での“カニバリ”も想定される。だが、当面こうしたカニバリは気にしない方針のようだ。

 「もちろん東電EP内で競合する領域も出てくるが、各社ともこれから独自の特徴や強みとする領域を出してくるはずで、その点はあまり問題ないと考えている。それよりも各社が独自の強みを発揮し、“東電EPグループ”として顧客にさまざまな選択肢を用意することがとても重要。将来的には、東電EPグループ全体でのシナジー創出にも期待したい」(田村氏)

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