ドイツの公共インフラサービス事業者「シュタットベルケ」。日本においても、自治体新電力の目指すべき姿として、しばしば語られる。そもそもシュタットベルケとは、どのようなものなのか? 日本版シュタットベルケの可能性は? 日本シュタットベルケネットワーク設立1周年記念シンポジウムに、その答えを探った。
一般社団法人 日本シュタットベルケネットワーク(JSWNW)は2018年9月11日、国連大学(東京都渋谷区)において、日独シンポジウム「シュタットベルケの未来」を開催した。JSWNWの設立1周年を記念するもので、地域エネルギー事業に関わる日本とドイツのエキスパートが一堂に会した。ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省の後援のもと、ドイツ・ヴッパータール研究所およびエコス・コンサルタントとの共催による。
シュタットベルケとは、ドイツ語の「STADTWERKE」であり、「Stadt」と「Werke」からなる。英訳すれば「City Works」だ。電力をはじめとした公共インフラサービスを提供する自治体出資の地域事業者のことを指し、その数は現在、ドイツに約1400を数える。日本においては、2016年4月の電力小売全面自由化により自治体が電力小売事業に参入できるようになったのを機に、自治体新電力会社の先行モデルとして注目されはじめた。ドイツの電力自由化は、日本より20年近く先行しており、シュタットベルケには日本の自治体が学ぶべき点も多いと考えられたためだ。
こうした機運を受け、JSWNW は2017年9月、日本版のシュタットベルケを全国各地に創設し、その運営を支援することを目指して設立された。ドイツの先例に学びつつ、日本ならではの特徴も踏まえ、地域における新しいビジネスとして電力小売事業を確立し、そこから得られる収益を地域が抱えるさまざまな課題の解決に生かしていこうとするものだ。
同シンポジウムには、「シュタットベルケとは何か」「シュタットベルケによる地域活性化」「シュタットベルケの新事業モデル」などをテーマに、日独合わせて14名のスピーカーが登壇した。
基調講演では、日独エネルギー転換評議会(GJETC)創設者の1人であるペーター・ヘンニッケ氏(ヘンニッケコンサルタント代表)が、「エネルギー転換における分散型アクターの必要性」と題して、エネルギー供給の未来は「分散型・地産地消」が担っていくことを説いた。
90%以上のドイツ国民は賦課金の負担があってもエネルギー転換(化石燃料から再生可能エネルギーへの転換)に賛成していること、地域のエネルギー企業であるシュタットベルケは他のどんなタイプの企業よりも市民に信頼されていることなどが、豊富なデータをもとに示された。同時に、エネルギーの分散化を進めることで多様なビジネスが生まれ、実際に地域の発展に貢献していることが明らかにされた。
続いて登壇したドイツ自治体企業連合会(VKU)のアンニカ・ウーレマン氏(電力市場デザイン・気象保護専門分野リーダー)は、ドイツにおけるシュタットベルケの歴史と現状についてレクチャーした。シュタットベルケの始まりは1850年から1900年代初頭にまでさかのぼり、100年を超える歴史を持つところも少なくない。一方で、地域の資源を有効活用して地域内に新規事業と雇用を生み出すべく、新しく設立されるシュタットベルケも後を絶たない。電力に関してみると、1998年に全面自由化が実施された段階では、E.ON、RWE、EnBW、Vattenfallの4大電力会社が大きなシェアを占めたが、その後、大手電力のシェアが減って、シュタットベルケのシェアが伸びるに至ったという。シュタットベルケは、自由化の波にもまれながらも、しっかりと勝ち残った地域事業者なのだ。
ドイツのシュタットベルケは、電力小売事業や再生可能エネルギー発電事業の他、地域配電網の管理運営や熱供給事業など、幅広いエネルギー事業を行っている。さらに、ごみ処理事業や上下水道、地域交通、公営プールの運営など、さまざまなインフラサービス事業を展開している。また、シュタットベルケは自治体出資の民間経営事業体として、エネルギー事業等で得た収益で赤字事業を補てんし、事業体全体としての黒字を維持しつつ、地域に密着したインフラサービスを総合的に提供している。多様なサービスで地域住民の認知度を高め、地域に貢献する企業としてのイメージアップを図ることで、電力小売事業にも好影響をもたらしているという。
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