東京電力が姉ヶ崎火力発電所内に完成したガスの熱量調整設備を公開。これにより同社はこれまで東京ガスに委託していた都市ガス製造を自社で行えるようになる。電力・ガス、そしてプラスアルファの総合力が試される自由化市場の競争が、一段と激しさを増すことになりそうだ。
東京電力ホールディングスは2018年11月8日、千葉県市原市の「姉ヶ崎火力発電所」内に建設したガスの熱量調整設備を報道陣に公開した。都市ガスの自由化が始まり、電力だけでなくガスも組み合わせた顧客獲得競争が加熱するなか、ガス事業でのシェア拡大を目指す東京電力にとって、熱量調整設備の完成は大きな意味を持つ。
東京電力の2017年度のガス販売量は183万トンで、これは東京ガス、大阪ガス、東邦ガスに続く国内4位。同社では今後2025年度までにこの販売量を300万トン規模まで拡販する目標を掲げており、全国有数の“ガス事業者”としての地位を確立したい考えだ。
ではこの目標達成に向けて、どういった方法でガス事業の拡大を目指すのか。同社のガス事業は、大きく3つに分かれる。1つ目は熱量を調整していない、いわゆる「生ガス」を大口向けに供給する直送事業。2つ目は一般家庭など向けに都市ガスを供給する託送事業。3つ目が調達したLNGをローリーで直販する事業である。
現状、東京電力のガス事業の大きな柱となっているのは、生ガスを供給する直販事業だ。2017年度の販売量183万トンのうち、約80%を直販事業が占める。ただ、工場やプラントなど、大口顧客を対象とする直販事業は「一つ契約が取れると大きいビジネスだが、非常に足の長い事業」(東京電力エナジーパートナー ガス事業部 部長代理 結城達也氏)で、飛躍的に契約数を伸ばすのは現実的ではないという。一契約当たりの販売量が多い分、顧客を失った際の反動も大きい。
残る2つの事業の1つ、ローリーでの直販事業は販売量の数%にとどまり、こちらも大きな成長を見込むことは難しい。すると目標の2025年度に300万トン近いガス販売量を目指すには、残りの20%弱を占める、都市ガス供給を行う託送事業の成長が必須になる。そしてこの託送事業の成長ドライバーとして期待するのが、今回完成した熱量調整設備だ。
都市ガス事業者は調達したLNGを、そのまま都市ガスとして供給できるわけではない。LNGは産地や精製方法によって、密度や熱量にばらつきがある。そこで一般家庭に都市ガスとして届ける前に、熱量調整設備でLNGに液化石油ガス(LPG)を添加するなどし、単位体積当たりの熱量を調整しなくてはならない。
しかし東京電力は、自前の熱量調整設備を持っていなかった。この場合、首都圏で都市ガス事業を展開するにはLNGの熱量調整を、ライバルである東京ガスに委託するしかない。その結果、これまでは東京ガスとの契約に基づく熱量調整量の枠を、東京電力の都市ガス供給力の上限とせざるを得なかった。
だが、今回自前の熱量調整設備が完成したことで、ついにこの“足かせ”が外れることになる。都市ガスの原料となるLNGの調達についても、中部電力の合弁会社であり、世界最大級のLNG調達量を誇るJERAがあり、不安はない。結城氏は「熱量調整を委託しなくてはいけない状況では、都市ガスの販売の自由度が小さくなり、中長期の販売目標を立てにくい面があった。自前の設備を持つことで、都市ガスの供給力が上がるとともに、事業計画も立てやすくなる」と話す。
姉ヶ崎火力発電所内に完成した熱量調整設備は、既に運用を開始している。東京電力はこれにより、最大で年間60万トンの都市ガス供給力を得ることになる。これは一般家庭200万世帯分の供給力に相当するという。ただ、今後も東京ガスへの熱量調整の委託は継続する。都市ガスも電力のように、導管網に注入するガスの量(=供給量)と払い出し量(=需要量)を、一定の範囲内で一致させなくてはいけない「同時同量」の決まりがあり、こうした運用ノウハウの蓄積も必要になる。そこで、直近の顧客獲得数の伸びによる需要変化に柔軟に対応するため、「委託と自前設備の2つの熱量調整で、バランスをとっていく」(結城氏)という。
さらに東京電力は大阪ガス、JXTGエネルギーと共同で、東扇島LNG基地内に新たな熱量調整設備を建設することをも発表している。こちらは2020年に稼働を予定しており、製造した都市ガスは、3社共同出資で設立した新会社を通じて「品川火力発電所」に都市ガスを託送供給する計画。これまで品川火力発電所で利用する都市ガスは東京ガスから供給を受けていたが、これを切り替えることになる。
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