大きく変わった太陽光発電の「設計ガイドライン」、押さえておくべきポイントは?太陽光(2/3 ページ)

» 2019年07月29日 07時00分 公開
[廣町公則スマートジャパン]

傾斜地ならではの荷重にも注意喚起

 「基礎の設計」では、基礎のタイプを直接基礎(独立基礎・連続基礎・べた基礎・地盤改良工法)、杭基礎(支持杭・摩擦杭・杭状補強)に分類し、それぞれに指針を示す。2019年版では、新たに「杭基礎設計における水平抵抗力および水平変位」などについても詳述されている。例えば、「地表面変位が0.1D以上あるいは1cm以上変位すると予想される場合は、水平変位が予想される変位を超えるまで載荷することが望ましい。この時、短期荷重条件による水平変位によって、架台部材、接合部、杭頭接合部などが、許容応力度以下であること、杭体は腐食しろを除いた有効断面で許容応力度以下であることを確認する」ことが必要であるとする。また、「強風時の負圧による引き抜き力に特に留意」して設計を行わなければならないと指摘する。

突風(風圧荷重)により損壊した太陽光発電システム

 強風対策は、設計ガイドラインが一貫して重視しているテーマの一つだが、2019年版では「傾斜地での風速増加」についても注意を促す。山の斜面など傾斜地に設置された太陽光発電設備において、斜面の途中と登りきったところでは受ける風圧が変わってくる。風が下から吹き上がってくるときに速度が増し、斜面の上に行くほど風圧もアップしているのだ。高森氏は、「例えば、15度ほどの傾斜の場合、風速は2割くらい早くなります。風速が2割増加するということは、荷重はその2乗に比例するので、4割増加することになります。設計上想定していた荷重の1.4倍がかかるわけですから、斜面を登り切ったところで被害が起きるケースも出ている」と話す。

 「一般には、風圧荷重が大きい地域では架台の傾斜角を低くする、つまり水平に近くしてやると荷重が下がる。逆に、雪の多い地域では架台の傾斜角を大きくすることで、積雪を減らし、荷重を下げることができる。こうした基本を踏まえつつ、それぞれの設置環境に合わせた設計をしていくことが大切なのです」(高森氏)

正しい設計で長期安定運用を

 「腐食防食」に関しては、架台に雨がかからないことから生じる悪影響に注意を促す。架台は、太陽光パネルが屋根となるため直接雨に打たれることは少ないが、雨がかからないことで、かえって腐食が進んでしまうこともあるという。通常、雨は材料表面をぬらし、腐食を促進する(均一腐食)が、環境によっては大気汚染物質(飛来塩分や工場の排ガスなど)を洗い流し、腐食を抑制する効果もある。同様に、雨がかからないことで、大気汚染物質が架台表面に蓄積し、腐食が促進されてしまうことも考えられる。暴露試験の結果からもこのことは明らかであり、腐食を抑制するためには、「周辺環境を考慮した適切な材料を選び、有効な防食処理を施して使用することが必要である」と結論づける。

雨掛かりのない環境中での均一腐食例。A.雨が掛かりやすい所と雨が掛かりにくい所の比較(溶融亜鉛めっき)、B.縦桟となる角パイプ、C.角パイプ内部、D.角パイプを貫通していた鋼製ボルト 出典:地上設置型太陽光発電システムの設計ガイドライン2019年版

 腐食対策は、メンテナンスを考えることに直結する。「課題は長期耐久性です。設計のときにしっかり考えておかないと、後で大変なことになりかねません。もし、杭が土中で想定以上に錆(さ)びたら、メンテナンスもできなくなってしまいます」(高森氏)

 法の基準はあまでも最低基準にすぎない、と高森氏は続ける。「時間が経てば性能は下がっていきますから、はじめに法の基準より厳しく設計しておくのは当然のことなのです。経年劣化が進み、点検や補修をすることで、また性能を上げていく。それでも性能が保てなくなったら、元の状態に戻るよう修繕(しゅうぜん)する。事業継続の途中で法改正があり、耐荷重などの要求性能が上がったとしたら、さらに改修をして元の状態以上に性能を上げていく。それが理想です。しかし、なかなかこういう状況にはなっておらず、経年劣化のことすら考えていないケースも多いでしょう。設計に携わる方々には、この設計ガイドラインをそれぞれの実情にあわせて有効に活用していただければと思います」(同氏)

 今後は、構造安全性の研究をさらに進めて、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)や水上設置型太陽光発電についても、盛り込んでいきたいとのこと。太陽光発電の長期耐久性を高め、より広く社会に受け入れられる存在にしていくためにも、「設計ガイドライン」の役割は重要度を増すばかりだ。

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