早稲田大学および東京大学の研究グループが、需要家が所有する電気自動車(EV)を利用した新しいエネルギーマネジメント手法を開発。EVの充電機会を対象としたオークションの仕組みを利用することで、公平性などを確保しながら、太陽光発電の出力抑制量および電力コストの削減が可能になるという。
早稲田大学 理工学術院の林泰弘教授、および東京大学 公共政策教育部の大橋弘教授の研究グループは2019年7月、需要家が所有する電気自動車(EV)を利用した新しいエネルギーマネジメント手法を開発したと発表した。EVの充電機会を対象としたオークションの仕組みを利用することで、公平性などを確保しながら、太陽光発電の出力抑制量および電力コストの削減が可能になるという。
近年、太陽光発電などの天候で出力が変動する再生可能エネルギーの導入拡大に伴って、系統の安定化に向けたエネルギーマネジメント技術の開発が急務となっている。中でも蓄電池の活用したエネルギーマネジメント技術に注目が集まっているが、その1つとして“走る蓄電池”であるEVの活用も期待されている。研究グループによると、今後の普及が予想されるEVは日中に50%以上の台数が住宅に未稼働のまま駐車されているとされており、適切な時間帯にEVの充電を実施し、電力需要をコントロールできれば、太陽光発電をより効率的に活用できるという。
研究グループでは、こうしたEVによるエネルギーマネジメント手法を活用する上で必要な要件として、以下の3点を挙げている。
だが、上記の3つを満たすようなEVのエネルギーマネジメント手法はこれまで十分に検討されていなかったという。そこで今回研究グループは、太陽光発電の出力抑制量の削減を目的として、需要家が所有するEVの充電機会を対象としたオークション形式に着目したエネルギーマネジメントの手法の開発に取り組んだ。
具体的には、配電系統エリアの需要家のPV出力抑制が大きく発生することが見込まれる時間帯において、アグリゲーター主催するEV充電時間を対象としたオークションを実施する。オークションの参加者(需要家)は、自宅のPV出力抑制が削減されることによって得られる便益を考慮しながら、指定される時間帯でのEV充電に対する入札額を決める。落札した需要家は、EVの充電を対象時間に実施することで報酬を受け取ることができる。この報酬は、オークションに参加した需要家がアグリゲーターを介して分配して負担する形となるため、個々の需要家にとっては自宅のPV出力抑制が安価に軽減・解消されるという恩恵が受けられるとしている。
また、このオークション方式では、入札者は売り手(主催者)に対してのみ入札額を提示し、実際の落札では2番目に低い値を提示した入札者が落札者となるセカンドプライス・シールドビッド・オークション方式(以下、オークション)を活用した手法となっている。この方式によって、一人の入札者が仮に過度に低い入札額を提示しても、周囲の需要家にとっての出力抑制軽減の便益が適切に反映される。一方、落札できなかった需要家にとっても、入札時に自宅のPVの出力抑制軽減に対して負担しても良いと考えていた金額よりも安価に出力抑制の軽減が実現されるというメリットがあるとする。
研究グループは今回開発した手法について、配電系統における電圧安定、およびPV出力の有効活用を促進する上で、さまざまなエネルギー機器の運用に対しても応用可能と考えられとしており、今回の手法を応用した、再生可能エネルギーを有効に活用するための包括的なエネルギーマネジメント手法の開発をさらに検討するとしている。
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