注目の電力スタートアップLO3 Energyが目指す、分散電源時代の新たな電力流通とは和田憲一郎が語るエネルギーの近未来 (15)(1/3 ページ)

分散型エネルギーリソースが普及した世界におけるエネルギー情報・取引基盤の構築を目指しているスタートアップ企業がある。米国オレゴン州に拠点を置くLO3 Energyである。LO3 Energyのエネルギー情報・取引基盤戦略とはどのようなものか。また日本ではどのように対応しようとしているのか、関係者にヒアリングを行った。

» 2019年11月25日 07時00分 公開

 分散型エネルギーリソースが普及した世界における、新たなエネルギー情報・取引基盤を構築しようとしているスタートアップ企業がある。米国オレゴン州に拠点を置くLO3 Energy(以下LO3と記載)である。ブロックチェーンを活用した独自の電力取引基盤を開発し、ニューヨーク市ブルックリンで個人間の電力取引システムを開設するなど、エネルギー業界で注目を集めている1社だ。海外だけでなく、日本でも丸紅や京セラなどと実証実験に着手している。

 今回は日本におけるLO3の事業開発ディレクターを務める大串康彦氏(以下、大串氏)に、同社が開発を進める新たな電力取引基盤の概要や、活動内容の展望について聞く機会を得た。

図表1:LO3 Energy 大串 康彦氏

分散電源時代を見据えた新たな電力取引基盤を

和田憲一郎氏(以下、和田氏) 最初にLO3のビジネスについて教えてください。その事業形態はどのようなものですか。

大串氏 LO3は2012年に設立し、2015年に法人化をおこなったスタートアップ企業です。会社の目指すところとして、分散型エネルギーリソースが普及した世界におけるエネルギー情報・取引基盤の構築を目指しています。

 発電・小売の完全自由化や発送電分離が起こる前の電力システムは比較的単純で、発電・送配電・小売が垂直統合された電力会社が需要家に電気を供給し、対価を得るというものでした。調整力(後述)の概念はもちろんありましたが、これは垂直統合型の電力会社の中で内部調達されており、外部との取り引きは存在していませんでした。

 その後、発電は1995年に自由化されました。送配電はインフラであり、規制領域です。小売に関しては2000年から段階的に自由化が行われましたが、2016年春に家庭を含む低圧領域まで全面自由化され、小売電気事業者は現在600社以上が登録されています(2019年10月現在)。

図表2:今までの電力システム

 一方、顧客サイドには、小型太陽光発電のような分散化電源、蓄電池、EVなどのDER(Distributed Energy Resources:分散エネルギーリソース)が増加し、今後はDERも含めて電力系統を運用していこうという動きが出てきています。日本でも、調整力市場(需給調整市場)は2021年から運用開始予定であり、リアルタイム市場として取引が行われます。需要家は、従来のように電力会社から供給される電気を消費するだけでなく、分散型発電設備を持ち自分で発電する、EVや蓄電池をアグリゲータを介して電力系統の運用に利活用できるようになります。

 一方、DERが普及した世界では、顧客どうしの取引や、コミュニティの中での取引、電気に付随する環境価値の取引などのニーズが増加すると想定されます。これら新形態の取引ニーズに対応するために、今までの中央管理型の情報基盤は最適ではないのではないかというのが我々の問題意識であり、DERが加わり多様化・複雑化した取引に対応する情報基盤、取引基盤のプラットフォームを構築して提供しようと考えています。

図表3:これからの電力システム
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