注目の電力スタートアップLO3 Energyが目指す、分散電源時代の新たな電力流通とは和田憲一郎が語るエネルギーの近未来 (15)(2/3 ページ)

» 2019年11月25日 07時00分 公開

LO3 Energyが開発を進める3つのソリューション

和田氏 LO3はどのようなビジネスからスタートしたのですか。

大串氏 2016年に米国NYにあるブルックリン・マイクログリッドプロジェクトからスタートしました。一角を区切って、その中の住民どうしで電力を取引するプロジェクトです。実際には、需要家同士での電力取引は法規制がありできません。発電した電気を他の需要家に供給するためには小売電気事業者のライセンスが必要だからです。そのため、電気の代わりとして、電気に付随する地産環境価値、つまりローカルでグリーンな電力の価値の取引を行いました。ブルックリン・マイクログリッドプロジェクトは技術によって需要家同士が電力を取引できるようになるということを電力会社や規制当局などに示すためのデモであり、電気の代わりに地産環境価値を使うことで目的を果たしました。

 その後は、ドイツ、オーストラリア、日本(丸紅、京セラ)とプロジェクトを行っています。現在までに世界約10カ所でプロジェクトを行い、主に3つのプロダクト開発を進めています。

図表4:LO3 Energyが目指すビジョン

 1つ目のプロダクトが「Pando」です。これはブルックリンのコンセプトを継承したもので、ローカルエネルギー市場を提供し、コミュニティの中でエネルギーのやり取りを行うものです。

 日本ではこれまで再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)があり、FIT制度のもとで発電された電気は電力会社に買い取られていたため、自由に取引可能な電力を供給する人がいませんでした。しかし、2019年11月1日より、家庭用を中心に、買取期間が終了する太陽光発電(卒FIT電源)が多数発生します。数量でいえば、2020年3月末までで約53万軒となります。その後は毎年約20万軒出てきます。このため、LO3はPandoを卒FIT電気の新しいソリューションとして提案しています。

 LO3 Energyは直接参加者を集めプラットフォーム運営事業を行う訳ではなく、Pandoのプラットフォームを小売電気事業者やその他の電気事業者に提供するテクノロジープロバイダーに徹します。ビジネスモデルとしては「B2B2C」となります。小売電気事業者は、自社の顧客(需要家・太陽光発電オーナー)にコミュニティ内や顧客同士の電力取引という新規性のあるサービスを提供することによって、顧客とのつながりを強化し、新規顧客開拓を容易にしたり、既存顧客の満足度を上げ他社への流出を防止したりすることを期待してPandoを導入するという狙いです。つまりPandoは、小売電気事業者にとって顧客とのエンゲージメントツールの役割を果たします。

図表5:「Pando」のローカルエネルギー市場のソリューション

 次に実際に電力を売買する方法ですが、LO3では下図に示すようなアプリを開発しました。今回が3度目のバージョンアップです。本アプリを使って買い手が買値を入札します。入札値を設定できるとともに、毎日いくらまで購入するか、上限予算も設定することも出来ます。

図表6:Pandoのユーザーインターフェイス

和田氏 2つ目のプロダクトはどのようなものでしょう。

大串氏 マイクロヘッジシステム「Quantum」です。これはテキサス州のDirect Energy社と実証実験を行いました。法人顧客は市場から電力を買う時に変動するのでヘッジをかけていますが、これまでは週や日単位であったものを、時間単位とすることでムダなく、必要な時だけヘッジをかけることができるようになりました。顧客もコストを削減できるメリットがあります。現在、実証試験は完了しています。

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