燃料電池の劣化を大幅に抑制可能に、世界初の新触媒の開発に成功蓄電・発電機器

山梨大学、田中貴金属工業が燃料電池の劣化抑制につながるあらたな水素極触媒の開発に成功。この触媒を利用することで、従来の燃料電池向け市販白金水素極触媒を用いた場合と比べ、電解質膜の耐久性を4倍以上に高められるという。

» 2020年01月15日 06時30分 公開
[スマートジャパン]

 NEDOと山梨大学、田中貴金属工業は2020年1月、固体高分子形燃料電池の水素極において、電解質膜劣化の原因となる過酸化水素(H2O2)の発生を半分以下に抑制可能な、白金‐コバルト合金水素極触媒の開発に世界で初めて成功したと発表した。この触媒を燃料電池に組み込むことで、従来の燃料電池向け市販白金水素極触媒を用いた場合と比較し、電解質膜の耐久性を4倍以上に高められるという。

 燃料電池は、電解質膜の両側の電極に水素と空気を供給して発電する。水素極では、水素が酸化されて水素イオンと電子が生成される。もう一方の電極には空気を供給するが、酸素の一部が電解質膜を透過して水素極の触媒に吸着した水素原子と反応し、過酸化水素が副成される。過酸化水素が鉄イオンなどの不純物と接触すると、発生したOHラジカルが電解質膜を攻撃して分解してしまう。これが燃料電池の劣化原因として課題となっていた。

(A)燃料電池作動時の各電極での反応 /(B)水素極部分の拡大図:過酸化水素発生とOHラジカルによる電解質膜の分解劣化 出典:NEDO

 この課題に対して、山梨大学は、OHラジカル発生源である過酸化水素の発生速度自体を抑制することが最も有効な対策として、研究開発に取り組んだ。

 固体高分子形燃料電池の電解質膜は強酸性で、この環境において水素酸化反応活性が高いのは白金である。だが、これまでの燃料電池は市販の市販の白金/高表面積カーボンブラック担体触媒(市販Pt/CB触媒)が用いられていた。

 そこで山梨大学は白金‐コバルト合金ナノ粒子の表面構造を制御し、耐酸性を高めた白金スキン/白金‐コバルト合金触媒を試作。市販のPt/CB触媒に比べて、過酸化水素の発生速度抑制効果が非常に大きいことを発見した。なお、この試作触媒の白金使用量当たりの水素酸化活性についても、市販Pt/CB触媒より高いという。

 次に田中貴金属が量合成した新触媒を、厚さ25μm(マイクロメートル)の電解質膜に水素極として塗布し、空気極側には市販の白金ナノ粒子を黒鉛化カーボンブラックに担持して熱処理した触媒を塗布し、標準サイズの燃料電池単セル(電極面積29.2平方センチメートル)に組み込み、加速劣化試験を行いました。

 その結果、比較対象として市販Pt/CB触媒を水素極に用いた場合は、過酸化水素の発生などに起因する電解質膜の劣化により160時間で燃料電池の電圧が0.8V(ボルト)程度に急激に低下するとともに、電解質膜の水素透過速度が使用開始時の100倍以上に増加。また、解体後の検査では電解質膜が薄くなり小さな穴あきの発生が確認された。

 他方、今回開発した触媒を水素極に用いた場合は、過酸化水素の発生などに起因する電解質膜の劣化などが抑制され、600時間後でも0.9V程度と高い電圧を長時間維持するとともに、水素透過速度は初期の1.5倍の増加に抑えられた。約720時間後には電圧が0.85V以下へ低下したが、その電圧に達するまでの運転時間は、市販Pt/CB触媒を用いた場合の4倍以上に延びている。また、1000時間後に水素透過速度が初期の約10倍まで増加たが、市販Pt/CB触媒を用いた場合に比べて劣化が極めて緩やかだったとしている。

 今後、山梨大学と田中貴金属工業は、自動車会社などと連携して、開発した新触媒を用いた燃料電池を試験し、さらなる高性能・高耐久化に向けた研究開発を進める方針だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.