温度差で発電する“やわらかい電池”の実現へ前進、性能上限の仕組みを解明蓄電・発電機器

名古屋大学、北海道大学、産業技術総合研究所らの共同研究グループが、電気を流すプラスチック(導電性高分子)における熱電変換性能の上限を決めるメカニズムの解明に成功。温度差を利用して発電し、高い発電性能を持つやわらかく、フレキシブルな熱電変換材料・素子の開発につながる成果としている。

» 2020年02月19日 06時30分 公開
[スマートジャパン]

 名古屋大学、北海道大学、産業技術総合研究所らの共同研究グループは2020年2月、電気を流すプラスチック(導電性高分子)における熱電変換性能の上限を決めるメカニズムの解明に成功したと発表した。温度差を利用して発電し、高い発電性能を持つやわらかく、フレキシブルな熱電変換材料・素子の開発につながる成果としている。

 プラスチックの一種である導電性高分子は、軽量・安価かつフレキシブルな電子材料として、エレクトロニクス分野への応用が期待されている。その一例として、人体と外気の温度差で発電するウェアラブルな電池の開発などが挙げられる。こうした技術が実現すれば、IoT社会で必要とされる膨大な数の電子機器やセンサーへの電源供給を細やかに行えるなどのメリットがあるが、一方でほとんどの高分子材料の熱電発電性能は低く、性能向上が大きな課題となっている。

 熱電変換素子は、温度差により材料に起電力が発生するゼーベック効果を用いて発電する。高い発電性能(パワーファクター、以下PF)には大きなゼーベック係数と電気伝導率が必要になる。しかし、一般にこの2つの物理量は相反する傾向があり、PFの最適化を実現するためには、両者の関係を具体的に明らかにし、制御できるようにする必要がある。だが、高分子材料中には構造の乱れが多数存在し、これが電気伝導を妨げることでゼーベック係数と電気伝導率が複雑化するため、既存の理論ではPFを最適化することが難しいという。そのため、ほとんどの高分子材料ではPFの最大化をもたらすことが可能かどうかも分かっておらず、高分子材料を利用した熱電変換素子の性能向上の壁となっていた。

 そこで研究グループはPFの最適化に向け「分子配列の秩序が極めて高い高分子材料を用いることで、乱れの効果を抑制する」「材料への電荷注入を連続的に行い、ゼーベック係数と電気伝導率の関係を高い精度で明らかにする」という2つの方針で研究を行った。

 まず、高い構造秩序を示す高分子材料(PBTTT)を対象とし、極めて高い濃度まで電荷の導入が行える「電解質ゲート法」と呼ばれる電荷注入手法を用いて、高分子薄膜の電荷濃度を制御した。さらに、ペルチェ素子を用いて温度差を誘起することで、ゼーベック係数と電気伝導率、パワーファクターを同一材料で幅広く変調・観測できるシステムを開発した。

電解質ゲート法による電荷注入の模式図 出典:JST

 

 このシステムを用いて研究グループは室温で600S(ジーメンス)/cmを超える高い電気伝導率を実現させるとともに、電気伝導率の向上に伴いPFが明確なピークを示すことを、PBTTT薄膜において初めて見出すことに成功した。このようなPFのピークが見られる原因は、ピーク付近で材料の電気伝導性が金属に類似したものに変化している点にあることを突き止めた。

 一方で、乱れを含んだ高分子薄膜において、こうした金属的な電気伝導性が観測されることは、それ自体が極めて珍しい現象だという。研究グループは、電子スピン共鳴法を用いてPBTTT薄膜の電子状態をミクロなサイズスケールまで分析した。その結果、薄膜中の特に分子配列秩序が高い「結晶領域」では、金属状態の形成がより低い電荷注入量で起きていることを突き止めた。しかし結晶領域の間をつなぐ高分子(連結分子)は乱れの効果を強く受けるため、そこで電気伝導が妨げられ、半導体的な傾向が全体として表れると考えられるという。ところがPBTTT分子の理論的な構造計算を行うと、中性状態では分子の平面性が低い分子構造であるのに対し、電荷注入に伴い分子の平面性が高くなることが分かった。このような分子平面性の向上により、結晶領域間が電気的によく接続され、金属的な電気伝導と熱電特性が表れたと考えられるとしている。

ゼーベック係数(上)と発電性能(下)の電気伝導率依存性。PFは金属状態形成に伴い明確なピークを示すことが分かった 出典:JST

 今回研究によって、導電性高分子を用いた熱電変換素子の発電性能が、金属的な電子状態変化が起こる電荷注入量付近で最大値を持つことを明確に示したものであり、このような金属状態への変化は、微小な「結晶領域」では、従来考えられていたよりも低い電荷注入量で起きることも明らかになった。研究グループではこれらの成果から、結晶領域間を効率的に接続できる分子や素子の設計により、より低い電荷注入濃度で現在よりも高い発電性能を実現できると予想され、将来的に高い発電性能を持つフレキシブルな熱電変換材料・素子の開発につながると期待されるとしている。

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