「COP26」以降の気候変動の潮流――その中で日本企業が強みを生かす方法とは?「COP」を通じて考える日本企業の脱炭素戦略(後編)(2/3 ページ)

» 2022年01月17日 07時00分 公開

気候変動において生かせる日本企業の強みとは?

 前回の原稿で紹介したカタールの活動家シャフィ氏のコメントに見られた通り、日本はCOP26で石炭火力発電に固執したことで、世界的なNGO団体や途上国の人々を落胆させている。そしてそれ以上に日本のような先進工業国は、責任を十分に果たしていないと見られている。

「COP26」でスピーチを行う岸田総理 写真:内閣府

 確かに、国内の石炭火力発電に携わる発電事業者や重工業企業は今後、厳しい選択を迫られるだろう。しかし、日本企業全体にとっては責任を果たせるだけの大きな商機が到来していると考えてよい。日本の強みは製造業を中心にASEAN諸国に張り巡らされたバリューチェーンである。それぞれの国にばく大な規模の生産拠点を有しており、経済的に大きな影響力を持っている。

 COP26の合意内容で触れた通り、ASEAN諸国にもGHG削減に資する案件に対して多額の資金が投入されることが予想される。日本企業が現地で活用できる優れた技術力を地場企業や政府機関、国際機関にアピールする機会は多くあるはずである。また、日本政府の仕組み(JICAを通じたODA事業やJCM制度など)を活用した実績のある企業にとっては、今後排出権の国際的取引が活発になることも見越して、今のうちにどのような仕組みになるのか、情報収集をしておくことも可能ではないだろうか。

 幸いにしてそのような活動は日本企業にとって最大の生産拠点であるタイやインドネシアで始まっている。例えば、大手精密機械機器のリコーはタイの生産工場の建屋に設置した太陽光パネルによって発電した電力の使用を開始している。同社は企業の事業活動における再生可能エネルギー比率の100%を目指す世界的な活動であるRE100に日本企業として初めて参加している。日本企業がこのような取り組みをASEAN全土で実施すれば相当な量のGHGが削減されるだろう。日本政府が主導し毎年開催されているアフリカ開発会議(TICAD)も人脈作りや案件組成に向けた話し合いを開始できる好機である。JICAだけでなく世界銀行やアフリカ開発銀行といった国際開発金融機関(MDBs)も参加しているため、信頼性の高いファイナンス機会の獲得も模索することができる。アフリカ市場は日本にとって最後のフロンティアと言われて久しいが、既に英国、フランス、ドイツ、スペイン、アメリカだけでなく新興国である中国、インド、UAEなどさまざまな国の企業が積極的に投資を行っている。アフリカは既に最後のフロンティアではないのである。

 2010年から2015年まで気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)の事務局長を務め、パリ協定の合意を成功させた立役者として知られるクリスティアナ・フィゲレス氏は2019年に日本で行われた講演会で、「日本は気候変動を改善できるだけの技術力、資金力、優秀な人財の全てを有しており、あとはリーダーシップを発揮するだけだ」と述べている。筆者もこれまでのコンサルティング経験の中で途上国での事業開発に興味関心のある多くの方から話を伺い、素地は整っていると感じる機会が多かった。そのため、日本企業が取りうる最初で最後に残されたことは、経営層のイニシアティブと英断だけではないのだろうか。

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