「COP26」以降の気候変動の潮流――その中で日本企業が強みを生かす方法とは?「COP」を通じて考える日本企業の脱炭素戦略(後編)(3/3 ページ)

» 2022年01月17日 07時00分 公開
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どの市場で貢献すべきか――日本企業に問われる企業戦略とその能力

 日本企業が貢献できる市場を特定するにあたって、COPで話し合われるアジェンダや課題を基に進出する国や技術に関する情報収集も重要であろう。例えば、2022年の「COP27」はエジプト、2023年の「COP28」はアラブ首長国連邦で開催される予定になっている。COPの開催地は輪番制ではなく各地域からの立候補制で決定される。先の英国の例で見た通り、立候補する国は議長国として相応の取り組みや目的を有しており、それらを国内外に発信する好機としてCOPを招致しているため、招致国自体が次の有望な市場と考えてよい。

 例えば、来年の開催国であるエジプトは危機に瀕している国の一つだ。同国の地中海沿岸は肥沃(ひよく)な穀倉地帯であるが、海抜が低いために海面上昇によって大部分が水没し食糧危機が危惧されている。そのため、沿岸部のインフラの強靭化が求められている。加えて、同国の農業、産業、人々の生活を支えているナイル川の水量が上流の降雨パターンの変化によって減少すると試算されており、新たな水源開発が急がれている。アフリカ大陸を代表する経済大国としてエジプトはこれまであまり聞き入れられてこなかったアフリカの声を世界に発信すると意気込んでいる。同国の動きに対して英国政府が所有する世界最大のインパクト投資家の一つであるCDC Groupは2022年にエジプトに駐在事務所を開設し、現地の有望企業に対する投融資を既に開始している。

 エジプト同様に、2年後のCOP28の開催国であり、世界最大の産油国の一つであるアラブ首長国連邦においても、石油に過度に依存する経済からの脱却や中東地域における脱炭素社会の実現などがテーマになってくるだろう。開催国だけ見たとしてもさまざまな課題が浮き彫りになってきており、それぞれの問題に対応できる体制や製品・サービスを検討することが重要である。

 これら中東や北アフリカ地域(「Middle East」と「North Africa」の頭文字をとって「MENA地域」と呼ばれる)諸国に、現地法人を持つ日系企業も多いと認識している。そのため、既存のネットワークを最大限に活用し、地域やそれぞれの国の課題を的確に捉え、日本企業が持つノウハウを事前に仕込んでいくような営業活動ができるのではないだろうか。

 営業活動と言うと無粋に聞こえるかもしれないが、気候変動対策とは技術ありきの議論なのだ。そして、技術を持っているのは国際機関や政府ではなく民間企業しかない。加えて、企業経営から商品開発にいたるまで、気候変動を競争戦略として盛り込む重要性は何十年も前から主張されていることであり、民間企業の創意工夫こそがドラスティックな変化をもたらす原動力なのである。この潮流は現時点でカーボンニュートラルの達成目標年である2050年まで続くと考えてよいだろう。そのため、ニーズを把握し、適切なタイミングで的確なオファーを実現できる企業戦略とその能力が問われているのだ。

 一つの例として、COP26において英国政府とともに協賛パートナーとなっている民間企業が11社あったのだが、そのほとんどが英国企業である中、日立製作所が参画しているのが印象的だった。同社は英国で鉄道事業を始めとして、さまざまな分野に進出しているが、ネットゼロ社会を目指す同社の戦略と実現する手段としてCOP26に深く関与できるポジションを得ていたことは非常に優れた展開戦略と言える。

 企業が単独でCOPの全体像やその変化を追うのは非常に困難であり、その活動にも限界がある。しかし、単独である必要はなく国内外には志をともにするパートナーとなり得る企業や団体が多く存在している。筆者は2019年までフィリピンに駐在していたのだが、その際に、ASEAN諸国の人々が持つ日本企業に対する信頼性は圧倒的であることを知った。これは日本企業が戦後、脈々と積み上げてきた賜物であり、欧米や新興国の企業が持ち合わせていない明確な強みである。外国企業は日本企業とASEAN市場においてパートナーシップを組むことを望んでいる。そのため、気候変動分野に関連するさまざまな業種で日本がリーダーシップを発揮することができると確信している。

 また、先に触れた通り、英国をはじめ、フランスやドイツと言った国々はアフリカや中東などの途上国で積極的に事業を展開しており経験値も豊富だ。これらの国々の企業と連携し第三国で事業を行うことで大きな社会的インパクトを出すことができるのではないだろうか。

最後に

 本稿はCOP26を中心に議論を進めたが合意内容自体にあまり意味はなく、なぜ先のような結果になったのかを、南北問題をはじめ過去の歴史から振り返ることが気候変動の潮流と今後の議論を理解する上で最も重要なことであると考える。

 20世紀までは企業活動を含む経済開発と環境保全はトレードオフの関係であったが、21世紀はそこに持続可能性(Sustainability)の観点を加え、どの国においても経済開発と環境や社会福祉の改善が同時に進められなければ、次の世代が暮らせない世界になるという危機感が共通認識となった。昨今の自然災害の多さを筆者自身も目の当たりにし、先進国に暮らす者として、より積極的に責任を果たさなくてはならないと実感している。COP26はわれわれや子ども達がどのような世界にしたいのかを考えるために、重要な示唆を与えているのではないだろうか。

著者プロフィール

株式会社クニエ 途上国ビジネス支援担当 シニアコンサルタント 高橋 正史(たかはし まさふみ)


米系マーケティング企業、日系シンクタンク・マニラオフィス、NPO職員などを経てクニエ入社。専門のマーケティングを生かし、多種多様な業種の調査に従事したほか、国内だけでなく東南アジア諸国やアフリカにおける日本企業の進出支援や事業開発を行う。現在は、官公庁案件を中心に環境関連分野の調査や民間企業向けのビジネスコンサルティングに従事しており、政府や日本企業等の官民連携を通じて途上国の課題解決に努めている。国際開発学修士(専門:開発経済学)。


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