「COP26」以降の気候変動の潮流――その中で日本企業が強みを生かす方法とは?「COP」を通じて考える日本企業の脱炭素戦略(後編)(1/3 ページ)

気候変動に対する世界的な危機感の高まりから、その開催に大きな注目が集まった「COP26」。では今回の「COP26」、そしてそれ以前から続く世界の気候変動に関する大きな流れについて、日本企業は何に注視し、どのように事業戦略に落とし込んでいけばよいのだろうか。「COP」の概要や他国の取り組みをもとに、そのポイントを解説する。

» 2022年01月17日 07時00分 公開

 2021年秋に開催され、気候変動に対する世界的な危機感の高まりから大きな注目を集めた「COP26」。前回の原稿では、まず「COP」の成り立ちから、「COP26」に至るまでの世界の気候変動に対する大きな流れについて解説した。

 後編となる今回は、COP26以降の社会の変化とともに、それを踏まえたうえで日本企業がどのような戦略を考えるべきかについて考察する。

モロッコを事例に見る、COP開催後の社会の変化

 COP26が開催された後はどのような世界が待っているのだろうか。これまで特に議長国を務めた国では、環境に配慮した製品・サービスの使用を後押しする機運が醸成されてきた。幸いにも当社に在籍するモロッコ人スタッフが、2016年にモロッコで開催された「COP22」のオーガナイザーとして従事した経験があり、COPが開催された後の社会変容を肌で感じ取っていた。そのため、ここでは議長国であったモロッコの事例を紹介したい。

 COP22はパリ協定が採択された翌年に、北アフリカの西岸に位置するモロッコで開催された。日本人にとってあまりなじみがないかもしれないが、農業、観光や工業が盛んな北アフリカを代表する国である。フランスの自動車メーカーが進出していることから、日系企業の進出数もアフリカ大陸で南アフリカに次いで2番目に多い。

 実はモロッコはアフリカ大陸の中でも再生可能エネルギーによる電源開発に最も積極的な国の一つである。2020年時点で国家全体の発電量の37%は太陽光や水力による再生可能エネルギーである(日本は2019年時点で18%)。2030年に52%まで引き上げることを目標にしており、年々その率は増えている。

 再生可能エネルギーを推進する理由は、モロッコは天然資源に恵まれないため、エネルギーの大半を輸入に依存しているからだ。原油や天然ガスの価格変動は国内産業の発展を後退させる要因となっていたことから、事態を重く見た国王によって2009年頃より国家課題として再生可能エネルギーの推進が始まった。この取り組みが功を奏していたことから、モロッコはCOPを通じて政府やモロッコ企業の取り組みを北アフリカ地域における脱炭素社会のモデルとして世界に発信し、外資の技術、資金、人財の呼び水としたかった。加えて、アフリカ大陸を代表する工業国の一つとして南北問題や南南協力における外交的に中心的役割を果たすことに躍起であった。市民レベルにおいてもクリーンエネルギーへの関心はもともと高かったが、2016年のCOP22開催以降は政府も環境関連規制や政策を強化した。

COP開催後に再エネ・環境事業が成長、新たな投資機会に

 ここでいくつか同国の再生可能エネルギーへの興味関心の高さを代表する事例を紹介したい。まず、世界で最も知られているのは世界最大の太陽光発電所である「Noor Ouarzazate Solar Power Station(ヌール・ワルザザート太陽光発電所)」であろう。同発電所は580MWの発電出力を誇り、投資額は25億米ドル以上に及ぶ。その規模は圧巻の一言である。

「Noor Ouarzazate Solar Power Station(ヌール・ワルザザート太陽光発電所)」 写真:Richard Allaway

 EUの開発金融機関から巨額の投資がなされただけでなく、ドイツのSiemens(シーメンス)やスペインのAcciona(アクシオナ)などの多国籍企業が設備機械の納入や設計を行った。また、市民生活に直結する事業として交通分野において新しいサービスが発生した。例えば、主要都市の一つであるマラケシュ市では政府や市役所、国連工業開発機関(UNIDO)が協力し、アフリカ初の自転車シェアリングサービスであるMedina Bike(メディーナバイク)がCOPを契機に開始された。

 また、同国最大のバス運行会社であるALSA Marocは同市内で電気バスの運行を2016年以降開始した。EV産業はモロッコにとってまだ黎明期ではあるが、多くの外資自動車メーカーが同国を有望市場と見ている。既にフランスのCitroen(シトロエン)は2020年にEVのモロッコでの生産を開始しているほか、ドイツのOpel、中国のBYDも現地生産を計画している。途上国における新興産業の計画は、計画で終わってしまうことが多い。しかし、モロッコが特に事業可能性が高いと見られている背景の一つが、EV用蓄電池に使われるコバルトの埋蔵量の多さだ。EVの要である蓄電池の原材料を現地調達できることから多くの外資メーカーが興味を持っていると報道されており、既にドイツのBMWは先陣を切り、現地鉱山会社よりコバルトを直接調達する契約を結んでいる。

 モロッコでの環境に配慮した新しいビジネスの事例は枚挙にいとまがない。COPを開催する以前より市場全体がクリーンエネルギーに対するニーズが高かったと思われるが、モロッコ人スタッフいわく、COP後には明らかにその機運が市民の間で高まったと言っていた。筆者はモロッコの事情に明るくなかったが、英国同様にCOP開催国の背景を学ぶことは、新しい投資機会を知ることであると改めて感じた。

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