国内初の「太陽光パネル税」は成立するのか――法的な観点で今後の動向を推察法制度・規制(1/4 ページ)

2021年12月に岡山県美作市の市議会で可決された「美作市事業用発電パネル税条例」。太陽光パネルの面積に応じて課税を行うという、国内でも初めての税制として、その動向は大きな注目を集めている。エネルギー関連の法制度に詳しいオリック東京法律事務所に、この条例の概要とその適法性、そして今度の動向について解説してもらった。

» 2022年01月26日 07時00分 公開
[オリック東京法律事務所スマートジャパン]

注目が集まる国内初の「太陽光パネル税」

 岡山県美作市で制定された「美作市事業用発電パネル税条例」(以下「パネル税条例」)は、同市内の太陽光発電事業者だけでなく、全国の太陽光発電事業者及びその投資家、さらには風力など他の再エネ電源の事業者やその投資家をも大きく揺るがそうとしています。地方公共団体の条例が、日本の脱炭素政策の行方にも波紋を広げようとしています。

 パリ協定で合意された1.5℃目標(世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃高い水準を十分に下回るものに抑え、1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を継続すること)の下、日本を含む全世界の国々において脱炭素に向けた意欲的な挑戦がされているさなか、2021年12月21日、岡山県美作市は、太陽光発電事業者に対し太陽光パネルの面積に応じた税(以下「パネル税」)を新たに課すパネル税条例を制定しました。これは、炭素税ならぬ「再エネ税」を事業者に課す条例であり、しかも、課される金額は、後述のとおり、銀行からの融資を前提に事業を組成した場合には、事業者の収益の約10%に相当するとの試算もあります。

 パネル税条例の施行には総務大臣の同意が必要とされていますが、仮に総務大臣の同意がされてパネル税が実際に課されることとなれば、今後、他の地方公共団体でも同様の条例が制定されるおそれがあることに加え、ようやく広まってきた風力発電等の他の再エネ事業の発電設備に対しても課税をしようとする地方公共団体が現れるおそれも危惧されます。

 本稿では、日本の再エネ市場を揺るがし、日本の脱炭素政策の実現を大きく阻害しかねない美作市のパネル税条例の概要をお届けします。

1.美作市のパネル税の概要

 岡山県美作市(人口約2万7000人)では、2021年12月21日、法定外目的税(地方税法5条7項、731条1項)としてパネル税を課すこととするパネル税条例が市議会本会議で可決され、萩原誠司市長により同日公布されました。かつて通商産業省(現在の経済産業省)の官僚であり衆議院議員も務めた萩原市長は、パネル税の導入を強く主張し、2019年に条例案を提出して以降2度廃案となった後も、一定の小規模事業を課税対象から除外する案を改めて市議会に提出して今回の可決に至りました(条例の条文については、こちらを参照。パネル税条例についての2019年6月4日付け弊所アラートをご参照ください)。

 パネル税条例は、「発電事業」を「市の区域内に設置された太陽光発電設備を使用し、発電を行う事業」と、「事業者」を「発電事業を行う者」と定義し(2条6号、7号)、「発電事業に対し、その事業者に」パネル税を課すると定めます(3条)。これから美作市で発電事業を行う場合のみならず、既に発電所の操業に至っている場合も同様です。その課税標準(税額の対象となる行為や物(課税客体)を金額で表したもの)は、毎年1月1日時点(5条)における「事業者の発電事業の用に供する太陽光発電設備のパネルの総面積」がとされ(6条1項)、税率は1m2当たり50円とされています(9条)。

 なお、パネル税条例では、一定の小規模設備等、すなわち、(1)屋根置き太陽光等の「建築物を構成する部分に設置した太陽光発電設備による発電事業」、(2)FIT認定における発電設備の設備容量が10kW未満の太陽光発電設備による発電事業、(3)FIT認定における発電設備の設備容量が50kW未満の太陽光発電設備であって、砂防指定地や地すべり防止区域等の一定の区域をFIT認定上の事業区域に含まないものについては、パネル税を課さないこととしています(4条1項)。

 パネル税の対象となる事業者は、毎年4月30日までに、その年の1月1日における課税標準となるパネルの総面積の値を記載した申告書を市長に提出することとされています(7条)。申告書の提出がない場合には、市長は、kWで表されるFIT認定上の「太陽電池の合計出力」(いわゆるDC値)に6を乗じた値(1kW未満の値は切り捨てた上で計算)をもって課税標準たるパネル面積(m2)とみなして課税ができる(FIT認定上の設備容量が50kW以上の場合)とされています(11条、8条2項、3項)。また、事業者は自ら同様の算定方法により課税標準を計算して申告できるとされており(8条5項)、文言上やや不明確ながら事業者は課税標準の算定方法を自ら選択できるとされているものと思われます。このほか、地域住民等に対して一定の要件を満たす寄附金を支出した場合には、パネル税の20%を上限として税額控除を受けられることなどが規定されています(10条)。

 なお、パネル条例では、一部の用語について、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号。以下「再エネ特措法」)9条3項の認定(いわゆるFIT認定)を受けた設備であることを前提とした定義が設けられていることから、FIT認定を受けた太陽光発電設備のみをパネル税の対象とすることを意図して起草されたようにも推測されますが、課税標準を定める規定で用いられる「事業者」「発電事業」「太陽光発電設備」「パネル」という文言はFIT認定を受けたものであることを前提としない定義とされており、文言上は、FIT制度の支援を受けない太陽光発電事業(例えば、今後成長が見込まれるコーポレートPPA等のスキームによるもの)に対してもパネル税を課すものと読むことができます。

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