国内初の「太陽光パネル税」は成立するのか――法的な観点で今後の動向を推察法制度・規制(2/4 ページ)

» 2022年01月26日 07時00分 公開
[オリック東京法律事務所スマートジャパン]

2.パネル税課税に必要な総務大臣の同意

 地方税法(昭和25年法律第226号)は、道府県税として道府県民税や事業税といった税目を、市町村税として市町村民税や固定資産税といった税目を設けてこれについての詳細な規定を置くほか、道府県及び市町村に対し、これらの国の法律において税目が明示された税(「法定税」といいます。)とは別に、独自に税目を起こして普通税又は目的税を課すことを認めています(「法定外税」といい、普通税、目的税の別に応じて「法定外普通税」「法定外目的税」といいます。地方税法4条3項、6項、5条3項、7項)。なお、普通税とは使途を特定しないで課される税を、目的税とは予め特定の経費に当てる目的で課される税を意味します。

 道府県及び市町村は、条例で定める特定の費用に充てるため法定外目的税を課すことができるとされていますが(地方税法731条1項)、そのためには総務大臣に協議してその同意を得なければなりません(同条2項)。総務大臣は、(1)国税又は他の地方税と課税標準を同じくし、かつ、住民(納税義務者)の負担が著しく過重となること、(2)地方団体間における物の流通に重大な障害を与えること、(3)国の経済施策に照らして適当でないことのいずれかの事由があると認める場合を除き、上記同意をしなければならないとされています(733条)。このほか、地方公共団体の条例制定権は国の法令の範囲内でのみ認められるものですので(憲法94条、地方自治法14条1項)、後述の最高裁判決でも述べられているとおり、法定外目的税の課税が適法であるためには、地方税法その他の国の法令に反しないことが当然の要件です。

 総務大臣の同意の制度は、主として法定外税を課す条例に政策的見地から適切なコントロールを及ぼすことを意図したものと解され、ことに「国の経済施策に照らして適当でない」かどうかについては総務大臣の政策的判断を求めるものであることは文言上明らかですので、総務大臣には、その責任において、法定外税を課す条例が「国の経済施策に照らして適当でない」かどうかを適切に判断する裁量が与えられていると考えられます。

 1.5℃目標の下、日本政府は、2020年10月に2050年カーボンニュートラルへのコミットメントを表明し、再エネ推進のための改革の議論を進めてきました。2021年6月には、令和3年法律第54号により地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「温対法」)が改正され、1.5℃目標や2050年カーボンニュートラルが気候変動対策の「基本理念」として国内法上明確に位置づけられるとともに(温対法2条の2)、市町村には各区域において脱炭素化のための計画を定める努力義務が課され(同改正後の温対法21条4項、5項。2022年4月1日施行)、国及び地方公共団体が脱炭素に向けた取組みをいっそう加速させることが期待されています。

 こうした中、太陽光発電事業者に対してのみ新たな税を課すパネル税条例に対し、総務大臣が「国の経済施策に照らして適当でない」との判断を毅然として示すのかは、今後の協議・同意のプロセスにおける注目すべきポイントです。冒頭で述べたとおりパネル税条例が多くの再エネ事業に波及していく可能性があり、国が進める脱炭素政策の遂行に重大な悪影響を及ぼしかねないことを考えると、パネル税条例への同意・不同意は、これを通じて日本政府の再エネ推進に対する姿勢が国内外に示される場面となることは必至です。

 さらに、上記(1)のとおり、「課税標準を同じくし」かつ「負担が著しく過重」である場合には、総務大臣は同意を拒否することができます。すなわち、地方税法は、いわゆる二重課税による不合理な負担が生じていないかという見地からも、総務大臣による適切なコントロールを期待しているといえます。この点、事業用の太陽光パネルを含む発電設備は、地方税法上、既に「償却資産」として固定資産税(市町村の法定税)の対象とされています。

 美作市の説明としては、固定資産税が発電設備を課税客体(課税標準はその評価額)とするものであるのに対し、パネル税は発電事業という行為を課税客体(課税標準はパネルの面積)とするものであるから、両者は重複していないとのことのようですが、税額の算出に当たって着目する客体がいずれも発電設備であるという事実を左右するものではありません。総務省でも、「課税標準を同じくし」とは「実質的に見て......課税標準が同じである場合を含む」との立場を明らかにしており(平成15年11月11日総税企第179号総務省自治税務局長通知「法定外普通税又は法定外目的税の新設又は変更に対する同意に係る処理基準及び留意事項等について」(以下「平成15年通知」))、過去にも、法定外普通税としての「電柱税」の新設に関して、「電柱は、固定資産税の課税客体であるため法定外普通税として新設すべきではない」(昭和26年11月16日地財委税第1875号市町村税課長回答)との回答が示されています。このとおり、課税標準の同一性は実質的に見るべきであり、同一の客体を評価額と面積とに形式的に分けたとしても二重課税の問題は回避できないと考えます。

 また、仮に美作市のいうように形式的な課税客体が違うという点に着目したところで、発電事業については既に法人事業税(県税。収入金額に一定の税率を乗じた金額等を基に算定されます)が課されていますので、他の地方税の対象とされている客体に二重課税をしているという構図は変わりません。

 加えて、パネル税は、太陽光パネル1m2当たり50円を課すものです。美作市では、FIT制度による支援を受けて市場価格より有利な価格で売電を行っている事業の場合、売電収入(売上)の約0.75%から2.5%程度の金額であると説明しています。しかし、大規模な太陽光発電事業においては、初期投資に際して銀行融資を活用するのが一般的であり、その場合には、例えば売電収入から運営コストを差し引いた後、その75%程度を融資の返済に充当し、残りの25%程度を出資者に配分するといったストラクチャが取られます。仮にパネル税によって年間2.5%程度収入が減少するとなると、出資者にとっては約10%(2.5%÷25%)の収入減少となって、IRRも大幅に下がります。

 大規模な太陽光発電事業は、大きな初期投資の後、長期間にわたって融資を返済しつつ投資を回収した上で収益を上げるという収益構造を取っており、事業を続ける限り継続的に課されるパネル税の負担は重いものです。しかも、既に課されている固定資産税については年々償却することで評価額が低減していきますし、同じく既に課されている法人事業税については欠損が生じた年などには税額にもこれが反映されますが、パネル税は、財産の価値や収益の有無・額にかかわらず、事業を続ける限りこれに不可欠な資産に定額で課税され続けます。

 こうしたことからすると、パネル税は、事業運営に支障を生じさせかねない水準の収入減少をもたらすものであって、事業者にとって著しく過重な二重課税(地方税法733条1号)にほかなりません。また、課税金額や課税期間を踏まえた負担の重さに照らせば、国が強力に推進すべき再エネ促進施策の目的・効果が大きく阻害されることは明らかであって、国の経済施策に照らして不適当(同条3号)と考えられます。そして、再エネ特措法上のFIT制度を利用する太陽光発電事業者も多い中、これだけ過重な税負担を課すことになれば、税負担等のコストも踏まえて定められた固定価格による一定期間の買取りを保証することで再エネへの民間投資を呼び込んできた同制度の前提も覆されますので、この観点からも国の経済施策との整合性(地方税法733条3号)が問われなければなりません。

 そもそも、パネル税条例は、パネル税の目的を「防災対策、生活環境対策及び自然環境対策のための施策に要する費用に充てるため」(1条)としますが、こうした一般的な目的のための財源として、なぜ太陽光発電事業のみを対象とする税を課すのかについては納得できる説明がされていません。美作市議会でも18人中5名の議員が反対票を投じましたが、反対した議員からこうした点に関する具体的な疑問が呈されたのに対し、明確な回答はなく、噛み合った議論はされませんでした。平成15年通知においては、留意事項として「地方公共団体の長及び議会において、法定外税の目的、対象等からみて、税を手段とすることがふさわしいものであるか、税以外により適切な手段がないかなどについて十分な検討が行われることが望ましい」としていますが、美作市においてこうした検討が十分に行われたのか疑問を残します。

 総務大臣には、こうした事情を適切に踏まえて適切に同意・不同意の権限を行使することが求められており、国内外の再エネ事業者や投資家等の関係者はその判断を注視する必要があります。

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