国内初の「太陽光パネル税」は成立するのか――法的な観点で今後の動向を推察法制度・規制(3/4 ページ)

» 2022年01月26日 07時00分 公開
[オリック東京法律事務所スマートジャパン]

3.適法要件の充足性

 前述のとおり、地方公共団体の制定する条例の規定は、国の法令に違反すれば無効です。判例では、条例が国の法令に違反するかどうかは、「両者の趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない」とされています(最高裁昭和48年(あ)第910号同50年9月10日大法廷判決・刑集29巻8号489頁〔徳島市公安条例事件〕。以下「昭和50年最大判」)。

 最高裁判所(最高裁平成22年(行ヒ)第242号同25年2月18日第一小法廷判決・民集67巻3号438頁〔神奈川県臨時特例企業税事件〕。以下「平成25年最判」)は、昭和50年最大判を引用した上で、神奈川県の臨時特例企業税(法定外普通税)を課す条例の規定が、地方税法の法人事業税(法定普通税)に関する規定と矛盾抵触し、違法・無効であると5人の裁判官全員一致で判断しています。裁判所は、法定普通税である法人事業税の所得割の課税標準の計算において繰越控除されることとされていた過去の欠損金額に相当する金額を課税標準として臨時特例企業税(法定外普通税)を課す神奈川県の条例の規定を無効と判断し、還付加算金とともに納税者に納付金を返還するよう命じました。

 最高裁判所は、地方税法の法定普通税についての規定は、「これと異なる条例の定めを許容するものと解される別段の定めのあるものを除き、任意規定でなく強行規定であると解される」と判示し、「法定普通税に関する条例において、地方税法の定める法定普通税についての強行規定の内容を変更することが......許されない」のと同様に、「法定外普通税に関する条例において、同法の定める法定普通税についての強行規定......の内容を実質的に変更すること」も、地方税法の規定の「趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものとして許されない」と判示しました。

 このように、最高裁判所は、法定外普通税と法定普通税との関係についてではありますが、法定外税について定める条例の規定が、地方税法上の法定税に関する強行規定(条例による内容の変更が許されない規定)に反して実質的にこれを変更するものであれば、違法・無効であるとの判断を示しました。同様の論理が法定外税と法定税との関係一般に妥当するのであれば、パネル税(法定外税)を定めるパネル税条例の規定が、例えば前述の固定資産税や法人事業税に関する地方税法の規定の内容を実質的に変更するに等しいといえる場合には、違法・無効と判断される可能性があります。

 前述のとおり課税標準を実質的に同じくする固定資産税との関係では、実質的に見てパネル税は固定資産税の課税標準を拡大するに等しく、しかも、固定資産税では財産の評価額の低下が税額に反映されますが、パネル税は太陽電池パネルの経年による価値の低下を一切考慮せずに税を課し続けるものであって、事業用資産に対する課税の在り方を実質的に大きく変容させるものです。また、市町村は、固定資産税について標準税率である1.4%よりも高い税率(超過税率)を定めることができるとされているとはいえ、どこまででも税率を上げることが許容されるわけではないと解され、実際、超過税率を課す地方公共団体の多くは1.50%または1.60%の税率にとどめていますので、固定資産税と実質的に課税標準を同じくする税を新設して重い負担を課すことにはこの観点からも疑問があります。

 さらに、市町村が大規模な消却資産に対し課税し得る固定資産税に関しては、人口に応じた上限額が設けられています(地方税法349条の4)が、パネル税条例はこうした規定の発想とも整合しない可能性があります。加えて、一定の要件を満たした太陽光発電設備(非FIT)については固定資産税の軽課措置(地方税法附則15条27項)が定められていますが、パネル税はこうした軽課措置の効果を打ち消すものといえます。

 このほか、美作市のいうように事業に対する課税という視点から見ても、法人事業税(県税)であれば収入金額の多寡や欠損の有無が税額にも反映される一方、パネル税は事業遂行に不可欠な資産の存在という外形のみに基づいて一定額を課し続けるものですので、事業に対する課税の体系にも実質的な変容をもたらすものといえます。また、法人事業税では収入金額に乗じるべき税率には上限(制限税率)が定められていますので(地方税法72条の24の7第8項・3項)、パネル税がこの上限を撤廃するに等しい結果となる場合には、制限税率が定められた趣旨を没却しないかについても検討が求められます。

 総務大臣が同意・不同意の判断をするに当たっては、平成25年最判の趣旨を十分に踏まえ、違法な条例に同意を与えることのないよう、パネル税条例の適法性についても十分な検討が望まれます。

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