国内初の「太陽光パネル税」は成立するのか――法的な観点で今後の動向を推察法制度・規制(4/4 ページ)

» 2022年01月26日 07時00分 公開
[オリック東京法律事務所スマートジャパン]
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4.まとめ

 2020年10月の菅義偉首相(当時)の2050年カーボンニュートラル宣言の後、国では再エネ推進のための多くの改革が議論されました。さらに、多くの地方公共団体が2050年カーボンニュートラルへのコミットメントを相次いで表明し、その数は2021年11月30日時点で492団体、区域人口にして1億1227万人に達しています(コミットメントを表明している地方公共団体については、こちらを参照)。こうした一連の脱炭素化の中で再エネ推進は最も効果的かつ基本的な施策であることには疑いがなく、温対法の改正も受けて再エネ推進の取組みは各地方公共団体も一体となって加速されることが期待されています。

 美作市は、2050年カーボンニュートラルへのコミットメントを表明しておらず、前述のとおり、国が目指す脱炭素政策及び再エネ推進の取組みに逆行するパネル税条例を制定しました。こうした地方公共団体による条例が総務大臣の同意により施行に至れば、国が、再エネ電源に対して他電源との競争上不利な課税をすることは国の施策に反するものではないとのメッセージを送ることとなり、他の地方公共団体による追随や風力発電設備等への課税対象の拡大を招きかねません。このように、パネル税条例は日本の再エネ市場全体にとっての新たなリスク要因となりかねず、ひいては日本の脱炭素施策の遂行を大きく阻害しかねないものであり、総務大臣による適切な権限行使によりこうしたリスクが早期に除去されることが望まれます。

 パネル税条例は、美作市だけでなく日本全国の再エネ事業に波及し得るものであり、ひいては、我が国の今後の脱炭素政策の実現の可否に直結するインパクトを持つものです。2021年11月に英国グラスゴーで開催されたCOP26において1.5℃目標追求の重要性を各国が改めて認識する中、再エネ事業者や投資家等の再エネ事業関係者のみならず、国内外のあらゆる人々が自らの問題としてパネル税条例の今後の推移を注視する必要があると思われます。

この記事について

この記事は、オリック東京法律事務所 エネルギー アンド インフラストラクチャーグループが発行している「Japan Renewables Alert 57」に掲載された原稿を、許諾を得て転載したものです。


著者プロフィール

オリック東京法律事務所・外国法共同事業 弁護士 若林 美奈子(わかばやし みなこ)


16年以上にわたり国内外の太陽光発電・風力発電等の再エネ案件に従事。レギュレーション関係、ファイナンス、コーポレートPPA等の新スキーム構築等、あらゆる問題に対応。前職は検察官検事。東海村JCO臨界事故捜査の経験を有する。東京弁護士会所属。メール:mwakabayashi@orrick.com



オリック東京法律事務所・外国法共同事業 弁護士 乾 由布子(いぬい ゆうこ)


太陽光発電や風力発電など再エネ案件のプロジェクトファイナンスや用地取得、許認可業務を中心に取り扱う。過去約7年の間に太陽光41件(計1370MW)、風力21件(計1400MW)の法務デューデリジェンスを主導。日本弁護士連合会公害対策・環境保全委員会特別委嘱委員、同地球温暖化対策プロジェクトチーム委員。第二東京弁護士会所属。メール:yinui@orrick.com


オリック東京法律事務所・外国法共同事業 弁護士 河村豪俊(かわむら ごうしゅん)


大規模太陽光発電や風力発電などの再エネ発電事業のプロジェクトファイナンス、デューディリジェンス、各種規制対応のほか、コーポレートPPA案件の組成や小売電気事業のサポートにも携わる。2013年判事補任官し、2019年まで裁判官として民事、行政、刑事、家事の各種事件に関与。東京弁護士会所属。メール:gkawamura@orrick.com


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