ソーラーシェアリングの普及に向けて、今後考えるべき3つの論点とは?ソーラーシェアリング入門(53)(2/3 ページ)

» 2022年02月10日 07時00分 公開

農業と電力供給の安定化に向けた新たな仕組み作りを

 「誰がやるのか」は、新たな仕組みづくりが重要だと考えます。現状、農林水産省の統計では、発電設備の設置者の60%が発電事業者によるものと明らかになっており、残り40%は農業者によるものというデータが示されています。ただし、農業者の所得向上という観点からは、ソーラーシェアリングは農業者がやるものという視点を置く一方で、地域のエネルギー生産拠点として供給力を確保していく観点からは、農業者だけの資力では到底導入が追いつかない点にも留意すべきです。

 農村におけるエネルギーを賄うだけであれば何とかなるかも知れませんが、食料生産と同様に国全体のエネルギー需要を一定程度賄うことに貢献していくと考えれば、地方自治体なども連携して大きな発電事業体制を構築し、農業生産の安定と同時にエネルギー事業を広げていく仕組み作りは欠かせないでしょう。これは、「社会に必要な食料とエネルギーの生産・供給を農山漁村が担う」ということにもつながります。

地域の農業と共存できる手法の確立へ

 「どうやるのか」は、設備設計と農業生産技術の課題です。これまでは現場レベルの試行錯誤で藤棚式や足高式(アレイ式)といったさまざまな設備設計が考案され、遮光環境下における農業生産も手探りで進められてきました。

 農林水産省の統計では、特定の栽培作物に事例が偏っていることが明らかにされていますが、これは特にFITを利用した発電事業を優先した高遮光率の設備設計が採られ、その下で栽培可能な作物として先行事例が踏襲され続けたことが一因と考えています。これはひとえに、国レベルでのソーラーシェアリングに関する設備・農業両面からの体系的な研究を欠いてきたことも関係していると考えています。

ソーラーシェアリングで栽培されている作物の統計データ 出典:第1回有識者会議 農林水産省資料より

 農業生産は地域差も大きく、穀物でも野菜でも果樹でも地域に応じた品種選びや生産技術が開発されてきました。国レベルでの理論・実証研究を行った上で、都道府県単位で農業試験場などに実証設備を導入し、その結果を踏まえて地域の農業と共存し得るソーラーシェアリングのモデルを早期に確立していく必要があります。

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