省エネ・再エネ活用の推進や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する「J-クレジット制度」。政府では森林の管理による吸収量の考え方や認証の方法について、大幅な制度変更を行う方針だ。
日本政府が目標とする「2050年にカーボンニュートラル達成」を実現するためには、エネルギーの最大限の脱炭素化を図ると同時に、脱炭素化が困難な分野に対しては、森林等による吸収やCCS(Carbon dioxide Capture and Storage、二酸化炭素回収・貯留)等のネガティブエミッション技術を用いた炭素除去が不可欠であると考えられている。
地球温暖化対策計画においては、2030年の温室効果ガス(GHG)46%削減目標のうち、2.7%(約3,800万トン)を森林吸収により達成するよう目標が引き上げられた。
しかしながら日本では人工林の高齢級化に伴い、森林吸収量は減少傾向(1990年度比 25%の減少)が続いているほか、主伐面積8.7万ha/年に対して再造林(人口造林)面積は3.9ha/年に留まるなど(いずれも2018年)、再造林の低迷により造林未済地が増加している。
2050年もしくはそれ以降を見据えた中長期的な森林吸収量の確保を図るため、林野庁では「伐って、使って、植える」循環利用を前提とした再造林を推進している。
このためには通常の木材等に加え、環境価値の販売による経済的インセンティブを林業経営者等に与えることが有効であり、その一つとして「J-クレジット制度」の有効活用が期待されている。地球温暖化対策計画では、森林経営活動等を通じた森林由来のクレジット創出拡大を図ることが述べられている。
このためJ-クレジット制度運営委員会は新たに「森林小委員会」を設置し、既存方法論の改定や新たな吸収系方法論の創設などを行い、J-クレジット制度環境の整備を検討してきた。
J-クレジット制度には再エネや省エネなど多数の方法論が存在し、クレジット認証量の合計は804万トン-CO2に上るが(2022年3月時点)、森林経営活動による吸収系のクレジット認証量は12.8万トン(1.6%)に留まっている。
森林管理プロジェクト(PJ)の登録件数は99件であり(J-VER制度からの移行48件を含む)、これらのPJ登録時の見込み吸収量は156万トンとされている。
入札により落札価格が公開されている再エネ発電(3,000円/トン程度)や省エネ(1,500円/トン程度)由来のクレジットと比べ、森林吸収クレジットは一般的に10,000円〜15,000円/トン程度(希望販売価格)の高単価で取引されていると推測されている。
J-クレジット制度はいわゆる「ベースライン&クレジット」と呼ばれるタイプの制度であり、ベースライン排出量(対策を実施しなかった場合の想定CO2排出量)とPJ実施後排出量との差である排出削減量が「J-クレジット」として認証される。(削減系PJの場合。図2も同様)
よって、ベースラインをどのように設定するか、また「追加性」をどのように考えるかが、非常に重要となる。
追加性(additionality)とは、当該制度によるクレジット販売収入が無ければ実現しなかったであろう削減(吸収)活動であり、自然体(成り行き)でも実施される活動は「追加性が無い」と判断される。
例えば、一般的に省エネはそれ自体が金銭的節約効果をもたらすことから、追加性を持ちにくいと考えられる。近年では再エネ発電導入においても初期費用ゼロかつ従前よりもランニング費用が安いケースもあり、このような案件は追加性が無いと考えられる。
近年、再エネ分野において「新規導入・新しい設備=追加性あり」という認識が一部に存在するようであるが、追加性の有無については慎重な判断が必要である。
追加性の判断基準は制度により異なるが、J-クレジット制度では主に経済的障壁により追加性の有無を判断しており、原則として投資回収年数が3年以上、またはランニングコストが上昇する事業が対象とされている(削減系PJの場合)。
J-クレジット制度では登録されたPJのクレジット認証対象期間は8年間であるが、再登録により最大16年まで延長が可能である。
今回の制度改定により、森林管理PJについては認証対象期間を最長16年間へと変更し、再登録を不要とする。
また森林PJでは「永続性担保措置」として、PJ認証期間終了後も継続的(10年間)に適切な森林管理を実施、報告することが求められている。
なお現時点、発行されたJ-クレジットに有効期限は設けられていない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.