CO2削減に使える「J-クレジット制度」、森林吸収の扱い方が大幅改定へ法制度・規制(3/4 ページ)

» 2022年08月16日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

主伐時の排出計上と再造林による吸収の算定方法を見直し

 現行ルールでは、森林が主伐された時点でCO2の排出が計上されるため(※)、森林経営PJによるクレジットの認証見込量は少なくなりがちである。(仮に間伐面積が少ない場合は、純排出となり、クレジットは創出できない)

 このためクレジット販売収入も小さめとなるため、主伐・再造林を含むPJが形成されにくいという課題がある。

※UNFCCC(国連気候変動枠組条約)に基づくGHG国家インベントリにおいては、伐採・搬出時点でCO2排出が全量AFOLU(農業、林業及びその他の土地利用)分野で計上されるため、他分野で排出を計上する必要がない。(例えば木質バイオマス燃料を燃やしても、すでに伐採時点でCO2を排出したことになっているので、燃焼時点で二度目のカウントをする必要が無い)

 今回、J-クレジット創出量拡大の観点から、森林経営活動PJについて、主伐・再造林に関する排出量・吸収量の算定方法を見直すことした。

 PJ実施者は、主伐後の伐採跡地に再造林を実施した場合、植栽木が標準伐期齢に到達した時点の炭素蓄積量を、当該PJの吸収量として認証申請できることとする。標準伐期齢とは森林経営計画で定められた主伐の林齢であり、一般的にスギの場合は40年である。

 つまりこの変更では、まだ実現していない「将来の吸収量」を前借りして、クレジットを発行することを意味する。ファクトに基づく従来のJ-クレジット制度の考え方とは大きく異なるものであり、J-クレジット制度そのものの信頼性を損ないかねないとの懸念が委員から示されている。

図5.PJ期間中のクレジット申請スケジュールと認証量 出所:J-クレジット制度運営委員会

 図5はPJ期間として8年間を想定した、クレジット認証量の試算である。

 このPJでは、3年目に1haを主伐することにより520トンが排出され、この時点ではクレジットを申請できない。5年目に再造林を行うことにより、40年間の炭素蓄積量375トンを吸収量として計上する。間伐による吸収も含め、この時点で173トンのクレジット認証が可能となる。

 この新たな仕組みにより創出されたクレジット(例えば100トン)の買い手は、今日、化石燃料の燃焼等により自社で100トンのCO2を現実に排出するが、そのCO2は将来数十年掛けて少しずつしか吸収されないという、大きな時間的齟齬(そご)が発生することとなる。

 この懸念に対して森林小委員会事務局は、日本では造林後の初期保育が適切に行われれば、森林の生育=将来の森林吸収が発生する蓋然性が高いと説明している。

 また仮に再造林された人工林が生育途上で人為的(伐採等)または自然の攪乱(山火事等)により炭素蓄積の回復が見込めなくなった場合、前者についてはプロジェクト実施者がクレジットの補填義務を負うルールを適用し、後者についてはバッファー管理口座(※)からクレジットを補填する仕組みとする。

※従来から、森林管理PJから発行されるクレジットのうち3%が自動的にバッファー管理口座に移転・蓄積されている。

再造林活動に関する方法論を新設

 高齢化の進行や林業離れにより、主伐後に再造林がなされないケースが増加しており、長期的な森林吸収量の低下が懸念されている。

図6.主伐面積と造林面積の推移 出所:森林小委員会

 このため造林未済地など、森林所有者が主伐後の再造林の意欲が低いことにより放置されている森林を対象として、第三者が代わりに再造林を行うことを想定した、再造林に特化した新たな方法論(FO-003)を新設する。

 森林の土地の所有者は、従来の森林経営活動法論(FO-001)を選択すべきであるため、この新方法論プロジェクトを実施することは出来ない。

木材利用の炭素固定量を評価可能に

 現在J-クレジット制度では、建築用材等の木材製品中の炭素固定量をクレジットとして評価する仕組みは存在しない。

 そこで今回、建材として利用可能な品質の高い林木の育成を促し、製材・合板向けの原木出荷量の増大に対してインセンティブを与えることを目的として、方法論FO-001(森林経営活動)が改定されることとなった。

 木材利用の炭素固定量をクレジット化する場合、永続性を担保する期間をどのように設定すべきかが論点となる。委員会では、国内木造建築物の残存率曲線から、永続性担保期間は90年間と設定された。

 図7から木造建築物の90年残存率は16.7%となる。

図7.木造建築物の残存率の経年推移 出所:J-クレジット制度運営委員会

 また建築用以外の木材製品(製材・木質パネル(合板・木質ボード))および紙製品については、IPCCガイドラインで示された一次減衰関数モデルを適用しており、90年残存率は非建築用製材では17.0%、木質パネルでは8.4%と算定されている。

 これを元に、伐採木材の炭素固定に関するクレジットの見込量を試算すると、スギ人工林1ha(50年生)を主伐した場合の原木出荷量を315m3と仮定すると、クレジット量は12トンとなる。

図8.伐採木材の炭素固定に係るクレジットの見込量 出所:J-クレジット制度運営委員会

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