脱炭素燃料として今後の利用拡大が期待されている「水素・アンモニア」。本格的な社会実装に向けてはサプライチェーンの構築が課題となる。政府ではこうした水素・アンモニアの商用サプライチェーンの構築に向けた具体的な支援策の検討を開始した。
水素・アンモニアは脱炭素燃料の有力候補と目されており、世界的な市場拡大が見込まれている。
国は2030年に水素供給量を300万トン/年、電源構成における水素・アンモニアの構成比1%を目指しており、産業・輸送用途においても、大きな需要創出が期待されている。
このような大量の水素・アンモニアを供給するためには、個々の技術開発に留まらず、新たなサプライチェーンの構築が必要とされている。
そこで資源エネルギー庁の「水素政策小委員会・アンモニア等脱炭素燃料政策小委員会 合同会議」は、自律的な市場形成の促進やコスト低減に向けた水素等の商用サプライチェーンの構築支援策の検討を開始した。
水素等の新たな脱炭素燃料の商用サプライチェーンを構築するにあたり、事業者は、化石燃料との価格差や、量的な売れ残りリスクに直面することとなる。
水素政策で先行する英国では、2023年から「Hydrogen Business Model」のもと、「Contract for Difference(CfD)制度」の導入が予定されている。CfD制度はFIP制度に似た仕組みであり、初期投資を回収できる水準で「基準価格」を設定し、需要家への販売価格等を「参照価格」とする。両者の価格差が「プレミアム」として供給事業者に支払われる。差益が出た場合には逆に、プレミアムを返還する。
これにより、事業者は長期的な販売単価に関して、非常に高い予見性を持つことが可能となる。
水素政策小委員会では、このような支援策を「市場型」支援制度と呼んでいる。
今後日本でCfD制度が導入されるかどうかは未定であるが、水素供給者と需要家の間で直接取引が行われることを前提に、自主的なサプライチェーンの形成意欲を促す観点から、「市場型」支援制度を軸とした検討が進められる。
なお、CfD制度だけでは、水素供給者が売れ残りの在庫を抱えるリスクは残るため、別途、何らかの支援措置が必要とされる。
水素・アンモニアはその由来する原料やCO2の除去等の違いにより、「グリーン」、「ブルー」、「グレー」に分類される。
現時点、国内では安価で大量の再エネ電力が調達できる状況ではなく、CCUSについても開発途上であることを踏まえれば、国内製造のみでは「グリーン」や「ブルー」の水素・アンモニアを大量に供給することは困難である。
よって日本の水素・アンモニアの供給ルートとしては、「①国内製造」と「②海外製造・海上輸送」の2つが想定されており、サプライチェーン構築においては、国内製造および海外製造の双方が支援対象とされる。
水素等のトータルコストのうち事業の初期段階においては、①国内製造においては電解装置コスト(製造設備費等)、②海外製造・海上輸送では製造および海上輸送の設備コストが特に大きいと考えられる。
よって、サプライチェーン構築により規模の経済や技術の成熟化に伴うコスト低下を目指して、「①国内の製造工程」「②海外の製造工程・海上輸送」を主な制度的支援対象とする。
また、海外から水素を輸入する場合、MCH(メチルシクロヘキサン)等の水素キャリアのかたちで輸入することが想定されることから、輸入後の脱水素設備等の変換コストも支援対象とする。
なお、グリーンイノベーション基金や各種補助金、長期脱炭素電源オークション等により、実質的な支援が別途講じられている案件も多いため、支援額の重複は控除する必要がある。
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