いま企業が再エネに投資するメリットとは――市場環境とコストから考えるTCFD提言を契機とした攻めのGX戦略(3)(2/3 ページ)

» 2022年10月31日 07時00分 公開

グリーンエネルギーも質が問われる時代に

 第2の理由としては、今後多くの需要家がグリーンエネルギーを活用するようになると、その中身が問われるようになるからである。

 世界で影響力のある企業3が「事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%で賄う」ことを目標とする国際的イニシアティブであるRE1004の参加企業は2014年の設立以降、毎年拡大し、2022年9月時点で、世界全体では378社、うち日本企業は72社となっている。

図4 RE100国別参加企業数と累計参加企業数 出典:環境省 RE100について(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/RE100_syousai_20220901.pdf)

 このように国別参加数でみると日本企業はアメリカに次ぐ世界第2位であり、全体の19%を占める再エネ先進国に見える。ただ、再エネ導入実績でみると違った一面が見えてくる。2022年3月時点で再エネ100%を達成している日本企業はまだ1社であるが、世界全体では61社となっている。日本と欧米では、送配電網の整備状況がメッシュ型とくし形で異なることなど、さまざまな状況の違いはあるものの、再エネ導入に関しては欧米企業がかなり先行していることは否めない。

図5 再エネ電力100%を達成しているRE100参加企業(2022年3月時点) 出典:環境省 RE100について(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/RE100_syousai_20220901.pdf)

 このように再エネ電力100%達成した企業が増えてくると、次に目指すのは「量」と「質」の充実であろう。「量」の充実に関しては、次はサプライチェーン全体での再エネ導入率の向上を目指すことになるだろう。これに関しては前回Apple社の事例を紹介したので参考にされたい。

 ここでは「質」の充実について述べたい。表1にRE100が認める8つの調達手法を列挙した。ここにある手法はすべてRE100として等しくカウントできるが、このように事実上順位付けされているのも事実である。実際に「6.再エネ電力証書の購入」や「5.再エネ由来電力メニュー」などで一旦はRE100達成したものの、それで終わらず、「1.企業が保有する発電設備による発電(自己投資)」や「2.企業の敷地内に設置した他社が保有する設備からの電力購入(オンサイトPPA)」の比率を高めていくような事例も見受けられる。

表1 RE100が認める再エネ電力調達手法 ※購買者と同じ電力市場内の再エネ電力発電設備による証書であることが必要

 「質」に関してはもう一つ「追加性(Additionality)」の概念についても触れておきたい。これについては欧米企業の間ではかなり浸透しており、最近日本でも意識する企業が増えてきたと感じている。この追加性に関して明確な定義はないが「新たな再エネ電源の増加を促す効果があり、その再エネ発電設備の稼働により火力発電の稼働を代替し、GHG排出量削減に寄与すること」といったあたりが大筋の考え方であろう。

 追加性のあるものとしては、直接投資による自家消費やオンサイトPPA等が挙げられる。一方で追加性がないと考えられるものとしては、FIT非化石証書などが挙げられる。FIT 電源は、発電促進賦課金を見込んで計画されたものがほぼすべてであり、FIT非化石証書の購入により新たな再エネ電源の増加を促すことに結びつかないからである。過去に作られた大規模水力発電なども同様に追加性がないと考えられる。

 RE100でも追加性を要件に加える案が出ており、RE100にカウントできる電力や証書を運転開始から15年以内の電源に限定する改定案5が提出されている(2023年3月改定予定)。ただし自家発電(自己投資/オンサイトPPA)やコーポレートPPA6は対象外であり、運転開始から15年以上を経過しても要件に適合するとみなされる。

 このように「質」に関する議論は今後も色々と出てくると思われ注視が必要であるが、自己投資による自家発電については最もプライオリティの高い調達手法に位置付けられており、これが筆者が企業に自己投資を勧める理由である。

3.年間消費電力量が100GWh以上である企業(特例で日本企業は50GWh以上に緩和)もしくはフォーチュン1000またはそれに相当するなどの参加条件有。上記参加要件の対象とならない日本企業や自治体等は、同じく再エネ100%を目指す「再エネ100宣言RE Action」という日本独自の取り組みに参加可能(https://saiene.jp/about)
4.CDPとのパートナーシップの下、The Climate Groupが運営。日本窓口はJCLP https://www.there100.org/
5.RE100 「Open consultation around proposed changes to the RE100 technical criteria」 March 2022(https://www.there100.org/sites/re100/files/2022-04/20200330_Open%20consultation%20on%20RE100%20technical%20criteria%20changes.pdf)
6.企業が発電事業者と直接長期間の電力購入契約(PPA)を結ぶこと。ただし現行法上電力小売り会社を通じた契約が必要。RE100調達手法「4. 企業の敷地外に設置した発電設備から系統を経由して直接調達」に該当

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