いま企業が再エネに投資するメリットとは――市場環境とコストから考えるTCFD提言を契機とした攻めのGX戦略(3)(1/3 ページ)

TCFD提言を契機とした企業のGX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けた方策について解説する本連載。第3回では昨今の市場環境を踏まえた上で、企業が再生可能エネルギーなどのグリーンエネルギーに直接投資を行うことのメリットについて解説する。

» 2022年10月31日 07時00分 公開

 前回は、企業がTCFD対応を契機にGX(グリーントランスフォーメーション)の潮流に乗り、企業価値の向上につなげる取り組みの第1弾として、Scope3算定を通じたサプライチェーンの強化について紹介した。今回は第2弾として2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて官民での取り組みが期待される中、企業のグリーンエネルギーへの直接投資について私見を述べたい。

 前回も述べたが、2022年6月に政府が取りまとめた「新しい資本主義」の重点投資分野にGXが掲げられるなど、いまグリーンエネルギー投資全体への追い風が吹いている。とりわけ太陽光発電に関しては、個別企業においても投資を行う好機と考えており、以下その理由を順に紹介する。

終わりの見えない電気料金の高騰

 第1の理由は、太陽光発電への投資は現時点でも商用電力を購入するよりもコスト的にメリットが出るケースが大半であると考えるからである。

 折しも2020年12月に発生した電力需給ひっ迫以降を契機に電気料金の高騰が続いている。図1に示すように2020年から2021年の段階で既に家庭向けは31%、産業向けは35%上昇しており、2022年に入ってもこの上昇傾向は止まっていない。図2に2022年11月適用分までの各電力会社の燃料費調整単価の推移を示したが、直近1年間での上昇幅は、最も小さい九州電力でも6.54円/kWh、最も大きい沖縄電力で15.19円/kWhとなっており、東北電力、東京電力、中部電力、中国電力でも10円/kWhを超える上昇となっている。このように2022年に入っても上昇基調は弱まるどころかむしろ強まる傾向を見せている。

図1 電気料金平均単価の推移 出典:資源エネルギー庁 小売電気事業の在り方について(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/051_04_02.pdf)
図2 燃料費調整単価の推移(高圧) 出典:各電力会社HP開示データをもとに 筆者作成

 この上昇要因はいくつか考えられているが、COVID-19で一気に落ち込んだ世界経済の急回復と、脱炭素社会への移行を踏まえた世界的なLNG需要の急拡大に、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻が追い打ちをかけたというのが大方の見方であり、現時点でも終息が見通せない。

 2022年4-6月期の国内大手電力会社の最終損益は7社が赤字だったという。これは燃料費の変動分を反映する燃料費調整制度が既に上限に到達しコスト転嫁が制約されたことで、各社の収益を押し下げたことが要因とみられる。2022年10月時点では大手電力会社10社すべてが燃料費調整制度の上限に到達するとのことであり、新電力のみならず大手電力でも一時は新規受付を停止せざるを得ないほどの異常事態である。政府も2022年10月末に取りまとめる総合経済対策に「電気料金の負担軽減」を入れることを表明している。

 一方、経済産業省のデータによると、図3に示した通り、太陽光発電の発電単価は2020年段階で概ね13-15円/kWhと、この時点で産業用電力の平均単価17.76円/kWh(2021年は19.28円/kWhに上昇)を下回っており、蓄電池2とセットで導入したとしても十分なコスト競争力があるといえる。電力自由化以降、電気料金が下がることが期待できた時代には太陽光発電への投資は「15-20年にわたってコストが固定化されてしまう」というネガティブなとらえ方をされることが多かったが、今は逆に「15-20年にわたってコストを固定化できる」とポジティブにとらえるべきであろう。

図3 事業用太陽光設置年別発電コスト 出典:経済産業省調達価格等算定委員会「令和4年度以降の調達価格等に関する意見」(https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/20220204_1.pdf)

 企業経営にとっては電気料金変動こそがリスクだと考えた場合にも、「電力先物市場」がまだ十分でない日本においては、太陽光発電への投資は電気料金固定化の有力解となり得ると考える。

 現在の金利状況も追い風であろう。2022年に入り米国、欧州では利上げが続き、金融緩和を続ける日本とは金利差が開く一方であり、140円/USドル台の円安が続いている。この先の金利状況はわからないが、歴史的な低金利水準の今は金利の面からも良いタイミングであろう。

 また、オフバランスを志向する企業においては、オンサイトPPA2モデルの活用も有効だろう。自己投資とオンサイトPPAは設備の所有者が自社か他社かのみの違いであり、再エネを自家消費することに変わりはなく電気事業法上の規制も受けない。補助金も活用できることなどから日本においてもPPA事業者が近年増えてきており、色々と比較検討するのが良いだろう。

1.蓄電池導入に際しては各種補助金の活用も可能。令和4年度蓄電池関連補助金は以下参照されたい(https://pps-net.org/subsidy/battery2022main)
2.第3者である事業者が需要家の屋根や敷地に太陽光発電システムなどを無償で設置・運用し、そこで発電した電気を電力販売契約(PPA:Power Purchase Agreement)に基づき需要家自身が購入するビジネスモデル

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