海外が先行する「カーボンリサイクル」のルール作り、日本の現状とビジネスチャンスは?欧米先進事例から考える日本のカーボンリサイクルの展望(3)(2/4 ページ)

» 2023年04月27日 07時00分 公開
[株式会社クニエスマートジャパン]

欧州におけるカーボンニュートラル政策の変遷

 パリ協定に基づく長期戦略として欧州委員会は2018年11月、「A Clean Planet for All」を発表した。同戦略において欧州委員会は2050年カーボンニュートラルを支持すると表明。また2050年までにGHG排出量を80%、90%、100%削減するシナリオを分析し、現行政策を元にしたベースシナリオでは、約60%の削減にしか至らず、追加対策が必要と指摘した。

 その上で、2050年カーボンニュートラルを実現するためには、循環経済や市民の行動変容、森林吸収源の最大化が必要と言及。これを踏まえてカーボンニュートラルと経済成長の両立を目指す政策パッケージ「欧州グリーン・ディール」が2019年12月に発表された。

 欧州グリーン・ディールでは、2018年時点で既にGHG排出量削減が1990年比で▲23%を達成していたことから、2030年の中間目標を▲40%から▲55%に引き上げることが提示された。その後、2020年12月にその中間目標が合意され、2021年7月に「2050年カーボンニュートラル」と「2030年55%削減目標」を法制化した「欧州気候法」とその具体的施策を纏めた「Fit for 55」が発表された。

 なお、「Fit for 55」はEU-ETS(European Union Emissions Trading System:欧州連合域内排出量取引制度)の強化、イノベーション基金強化支援措置等、CCUS産業関連内容を掲げている。

 また、欧州各国政府も、CCUS産業の育成/支援を含むカーボンニュートラル実現に向けた支援政策/措置をそれぞれ打ち出している。例えば、英国政府は2020年11月に発表した「グリーン産業革命のための10項目計画」において、CCUS産業へ総額10億ポンドを支援投入すると表明している。

欧州におけるカーボンリサイクル産業関連支援施策の位置付け

 欧州グリーン・ディールは2050年脱炭素社会実現に向けた方針と戦略を掲げており、EU排出量取引制度の仕組み作り、投資基金の設立、CO2の回収、利用、貯蔵の欧州市場やCO2輸出インフラの整備、CCUS技術の研究開発、実証等の支援施策を実施している。

図2 欧州のカーボンリサイクル関連主要施策 出典:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「COP27に向けたカーボンニュートラルに関する海外主要国(米・中・EU・英・独・インドネシア・エジプト・インド)の動向」等をもとにクニエ作成

 米国のように統一の税金優遇政策の実施が難しいが、域内各国の独自支援施策、CCUSベンチャー企業への投資や研究開発における各国企業・研究機構連携等の事例が多々ある。CCUS産業は欧州の重要産業になっており、先進技術の開発/商用化を武器とする新しい産業として育成されている。

中国におけるカーボンニュートラル政策の変遷

 世界最大のCO2排出国として注目される中国では、2021年3月公表の「中華人民共和国国民経済・社会発展第14次5カ年計画と2035年までの長期目標綱要」に、2020年9月に習近平主席が表明した「2030年までカーボンピークアウト実現」目標を組み込んだ。その上で、2021年7月に「循環型経済の発展に関する第14次5カ年計画」を発表。その後、2021年10月に「カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの完全、正確かつ全面的な実施に関する意見」で全体的な方向性を示し、「2030年までのカーボンピークアウトに向けた行動方案」で具体的な取り組みと目標を掲げた。

 さらに、2022年6月に「気候変動適応国家戦略2035」、2022年9月には「エネルギーのCO2排出ピークアウト・カーボンニュートラル標準化向上行動計画」が相次ぎ発表された。また、各地方政府が、これら中央政府の政策に基づき、各地方の現状に合わせながら独自のカーボンニュートラル推進対策を策定、実行している。

中国におけるカーボンリサイクル産業関連支援施策の位置付け

 前述の中国政策は、CCUSの支援施策が含まれているものの、そのほとんどがCCUS技術の研究開発への支援にとどまっている。他分野の支援施策と比較すると支援の優先順位が低く、支援内容がさほど充実していないことから、CCUS技術の優位性が見えない中国においては、規模型主導の方向で資金力を有しながら大規模な実証・商用化を実行できる国有企業がCCUS産業のリード役を担うと考えられる。

図3 中国のカーボンリサイクル関連主要施策 出典:中国政府各種公表資料をもとにクニエ作成

 また、筆者らが上海や深セン等の主要都市のカーボンニュートラル関連支援政策を調査した結果、CCUS産業における具体的な支援施策が主に技術研究開発の段階になっており、国全体の政策方向性と一致していることが分かった。

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